2016年6月9日木曜日

「いつでもどこでもシーケンシング」をOxford Nanoporeが実現

 今年の5月26日と27日の2日間に渡って、Oxford Nanopore Technologies (Oxford Nanopore)が同社のナノポアシーケンサーに関する製品や技術に関して研究者やユーザーと交流を行うLondon Callingコンフェレンス2016を開催した。今回のGOクラブでは本コンフェレンスでの発表の情報をもとにOxford Nanoporeの新製品と新技術を紹介する。


London Callingについて

 London Callingは、Oxford Nanoporeが主催するコンフェレンスであり、研究者やユーザーとの情報交流を図る目的で昨年初めて開催された今回のLondon Callingコンフェレンス2016(LC2016)は2回目である。LC2016で目を引いたトピックスは、「iPhoneなどのスマートフォンに連結し手軽に利用できる超小型ナノポアシーケンサー"SmidgION"の発表」、「小型ペンシル型の自動シーケンシング用サンプル調製デバイス"Zumbador"の発表」、「MinIONシーケンサーによる直接RNAシーケンシングの実現」、そして「小型デバイスで多種類の長鎖DNAを同時合成できる技術の発表」である。これらの発表の内容を以下にまとめる。

「いつでもどこでもシーケンシング」を実現

  4年前の2012年02月21日付のGOクラブで「Oxford Nanoporeのナノポアシーケンサー」を紹介し、2012年05月22日付のGOクラブでは、5年後の2017年には「いつでもどこでもシーケンシング」が実現できるであろうと予想した。その予想は的中した。スマートフォンに連結して使う超小型ナノポアシーケンサー"SmidgION"の開発を進めており、来年末(2017年末)までには利用できるようにしたいと、Clive Brown氏(Oxford NanoporeのCTO)がLC2016で発表した。
 SmidgIONは、MinIONよりも小さいデバイスであり、iPhoneのライトニング・コネクターとイヤホンジャックに差し込むことにより駆動する。SmidgIONのシーケンシング用フローセルはMinIONよりも集積度が密になっているが、チャンネル数はMinIONの1/2にあたる256である。シーケンシングに供するDNAサンプルは、すでに発表済みのVolTRAXまたは後述する新しい小型ペンシル型デバイスである"Zumbador"を用いることにより、簡単に調製できる見込みである。
 これらの自動サンプル調製デバイスとSmidgIONを用いることにより、野外でも家庭でも「いつでもどこでもシーケンシング」が可能になる。

直接RNAシーケンシング

  Clive Brown氏は、LC2016の講演で、別売りのキットを用いてRNAサンプルを調製すれば、MinIONデバイスを用いてRNAを直接シーケンシングできることを発表した。現時点では、ポリAが付いたmRNAのみシーケンシングが可能であり、RNAに特異的なモータータンパク質(RNAを動かすのに必要なタンパク質)を介してRNAがナノポアを通過することにより配列が読み取られる。DNAの場合ほどシーケンシング精度は良くないが、mRNAの発現定量には利用できることが示された。この別売りのキットは今年第3四半期にアーリーアクセスの形式で利用できる予定であることが発表された。

ターゲットシーケンシング法

  Oxford Nanoporeは、Nottingham大学の研究者と共同で、”Read Until”と名付けたターゲットシーケンシング法を開発し、今年の2月に発表した。本方法は、Oxford Nanoporeシーケンサーがリアルタイムで塩基配列を出力する特徴を利用して、ターゲットDNAがナノポアを通過したときにはそのままシーケンシングを行い、一方でターゲットでないDNAがナノポアを通過したときには、そのナノポアの電位を逆にしてDNAを排出することにより、ターゲットシーケングを行うというものである。また、Clive Brown氏は、「"Read Until"とは異なる方法で、ターゲットDNAだけを選択的にシーケンシングする手法"Refactoring Sample Delivery"技術」をLC2016で紹介した。

新しいDNA合成技術の紹介と今後の展望

  Clive Brown氏は、LC2016の彼の講演の最後で、「新しいDNA合成法を発明し、その方法を用いてOxford Nanoporeのサンプル調製デバイス"VolTRAX"のような超小型デバイスを用いて多種類の長鎖DNAを同時に合成できること」を発表した。この新しいDNA合成技術を活用する企業はOxford Nanoporeの子会社(The Genome Foundry Ltd; 略称はT. G. F. Ltd)となることを発表した。ユーザーがこの技術を利用できるようになれば、ユーザーは簡単にDNAを読んだり、合成(書いたり)できるようになるので、世界は一変すると感じた。
 また、Clive Brown氏は、インターネットを介してNanoporeシーケンサーのデータを解析できる現行システムである"Metrichor"を利用したサービスを、Oxford Nanoporeの子会社(Metrichor Ltd.)で推進することを発表した。Metrichor Ltd.でのサービスは今年中に始まる予定であり、本サービスを"The Internet of Things (IoT)"と対比させて、"The Internet of Living Things"と名付けた。
 Oxford Nanoporeのシーケンシング精度が約99%になり、実用性が現実化したうえに、今回のLC2016での各種発表を総合すると、「現在の状況はコンピュータービジネスの世界にパーソナルコンピューターが登場した状況と類似している」という印象を抱く。すなわち、大型汎用コンピューターが普及していた時代に、Macintosh コンピューターが発表された状況に類似している感じがする。今後、一般の消費者も手軽にシーケンサーを使える時代が到来し、世の中が大きく革新することは間違いない。