2015年11月27日金曜日

Illuminaの最近の動向:シーケンサーから医療ビジネスへのシフト

 Illuminaは、シーケンサー・ビジネスで独走しているが、その成長も陰りが見え始めた。しかし、Massachusetts Institute of Technology(MIT)が1899年に設立した調査機関であるMIT Technology Reviewが今年6月に発表した"50 Smartest Companies 2015"において、Illuminaは、研究向けシーケンサーの製造販売ビジネスから医療ビジネスへ事業をシフトしていることが評価されて、第3位に選ばれた。今回のGOクラブでは、Illuminaの今年6月以降の「医療ビジネスへのシフト」に関する動向をレポートしたい。


Illumina、50 Smartest Companies 2015に選ばれる

  Massachusetts Institute of Technologyは、毎年最も印象的であったイノベーション企業・組織のトップ50を"50 Smartest Companies"として選出して発表している。発表時期は毎年2月が多いが、今年は"50 Smartest Companies 2015"は6月に発表された。今年のトップ50にはバイオテク企業が15社選出されているが、創薬関連企業は一部である。その15社の事業内容を見ると、6社(IlluminaCounsylAliveCorEnliticGeneraliDNAnexus)がバイオデジタル情報関連ビジネスで選出された。この結果から、全産業分野の中でもバイオ技術の革新が特に注目され、また「創薬」から「バイオデジタル情報関連」へのシフトが読み取れる。今年からGOクラブの特集記事のタイトルの語を「次世代シーケンサー」から「バイオデジタル革命」に変えたのも、このような技術革新の潮流の変化が感じとれたからである。
 Illuminaは、昨年は第1位に選ばれており、"After outflanking and outlasting competitors, it is on top of the genome-sequencing business just as that market is about to soar in importance."という選評が付けられている。今年は、Illuminaは第3位に選ばれ、"Shifting its fast DNA-reading machines from research applications primarily to hospitals and cancer clinics."と評価が付されている。このように、Illuminaは今年は次世代シーケンサービジネスだけでなく、ゲノム情報を医療分野に応用するビジネスを推進したことが評価された。

新しい個人ゲノム解析ベンチャー企業Helixを創設

  Illuminaは、今年8月18日に、新しい個人ゲノム解析ベンチャー企業Helixを設立することを発表した新会社Helixは、Illuminaに加えて、投資会社Warburg PincusとベンチャーキャピタルSutter Hill Venturesが合計100百万ドル以上の資金を投じて設立された。
 IlluminaのCEOであるJay Flatley氏は、シーケンサービジネスに加えて、出生前診断、がん、消費者ゲノム解析、大規模集団ゲノムシーケンシングの4つの領域でサービス事業を推進することをこれまでに述べていたが、今回の新会社Helixの事業目的は消費者ゲノム解析の推進である。
 Helixのビジネスモデルは、消費者個人のゲノム配列を解読し、他のゲノム配列解析企業と組んで、その個人に対して解析サービスを提供するというものである。いわゆるAppleのApp Storeに近いモデルである。具体的には、Helixは消費者個人からサンプルを受け取り、その個人のゲノム配列を解読し、その配列情報を保管するプラットフォームを提供する。そして、さらにHelixのパートナー企業が個人ゲノム配列から意味ある情報を得るアプリケーションを提供する。消費者側から見れば、最初に自身のゲノム配列を得た後、自身の興味に応じて随時pay-as-you-go access(料金の都度払い)で種々の解析サービスを受けられることになる。最初のパートナー企業としては、Mayo ClinicとLabCorpが参画することが明らかにされた。
 Mayo ClinicとLabCorpの名前が挙がっていることから、日本で「SNPをベースにした遺伝子検査」が流行し始めた流れとは対照的に、医療機関や臨床検査企業がネットを介して「本格的なDTC (Direct-to-Consumer) ゲノム診断サービス」を始めることになるかもしれない。「ゲノム診断」といっても、当面は「劣性遺伝の疾病原因変異の保有(キャリア)」や「がん罹患の遺伝的素因解析」のような「潜在的な疾病発症リスク検査」のようなものを提供するのではないかと予測する。これらのサービスは当然のことながら米国FDAの許可が必要なものとなるだろう。なお、Mayo Clinicの最初のサービスは、DNA情報の意味に関する教育的なサービスとなるようだ

GenoLogicsの買収

  Illminaは、今年8月4日に、次世代シーケンシング(NGS)の実験管理に必要なLIMS(Laboratory Information Management Sysytem)の開発・販売を行っているGenoLogicsを買収することを発表したGenoLogicsが開発し、販売している次世代シーケンシングのラボ情報管理システムであるClariry LIMSは、Illuminaシーケンサーの実験管理を中心に世界中で広く利用されているITシステムである。IlluminaによるGenoLogicsの買収の意図は、次世代シーケンサーの普及に伴い、ゲノム解析工程の実験・データ管理のニーズが急増しているうえに、上記のHelixでも大規模なNGS解析事業を行うことになるので、その事業推進に備えたものと思われる。

ゲノム診断サービス事業に関する他企業との提携

  上述のように、Illuminaは、研究用シーケンサービジネスから医療ビジネスへのシフトで、今年6月に50 Smartest Companies 2015の第3位に選ばれたが、以下に示すように、6月以降も医療ビジネスへのシフトを鮮明にしており、特に中国のゲノム診断企業と集中的に提携を進めていることがわかる。
・Illuminaは、不妊治療技術および生殖補助医療(assisted reproductive Treatment 、ART)を行うラボでのプロセスを進展させるために、ドイツの製薬企業Merck KGaAとオーストラリアの不妊治療専門企業Geneaの新たな協力関係となるGlobal Fertility Allianceを設立したことを今年6月8日に発表した
・Illuminaは、中国のゲノム検査企業であるAnnoroadと提携して、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)におけるNGS技術の臨床応用を共同で推進することを今年6月10日に発表した。具体的には、NGSを用いた非侵襲的出生前診断システムの開発を共同で行うとしている。
・Illuminaは、中国のがんゲノム検査企業であるBurning Rockと提携して、がんゲノム診断におけるNGS技術の臨床応用を共同で推進することを今年8月24日に発表した。今後は、中国市場向けに、ユーザーフレンドリーな腫瘍の分子診断キットを2社共同で開発するとしている。今回の合意の一部として、イルミナはNGS装置のコンポーネントや関連試薬を提供する一方、Burning Rock社は核酸抽出やライブラリー調製、さらにデータ解析用ソフトウェアの提供を行うことも発表されている。
・Illuminaは、中国のがんゲノム検査企業であるAmoy Diagnostics Co., Ltd.と提携して、NGSを利用した一連のがん検査パネルの開発を共同で行うことを今年9月30日に発表した