2015年7月10日金曜日

GenapSys、ついにシーケンサーの試用開始を発表!

  次世代シーケンサー開発ベンチャーであるGenapSys, Inc. (GenapSys) が、半導体チップを用いた小型ポータブル次世代シーケンサーである“GENIUS System”のアーリーアクセスを開始すると自社ホームページ上で発表した。今回のGOクラブでは、この話題を取り上げる。


GENIUS Clubへの加入によりシーケンサーの試用が可能になる

  GenapSysは、次世代シーケンサーGENIUS Systemの商用販売の開始前に、GENIUS Systemを試用できるGENIUS Clubを開設した。なお、GenapSysは、以前からGENIUS Clubでのアーリーアクセスを受け付けることを公表していたhttp://omics-club.blogspot.jp/2014/02/20140225.htmlが、その時期などは定かでなかった。GenapSysは、ごく最近になって、自社ホームページ上で正式な受付の開始を発表した。

 GENIUS Clubへの加入を申し込み、GENIUS Clubのメンバーになることが認められた後に、2,500ドルの預け金を支払うことにより、GENIUS Systemの利用が可能となる。GENIUS Clubのメンバーになると、GENIUS System 1台、ソフトウェア、そして10ラン分の消耗品がメンバーの手元に届く。メンバーはGENIUS Systemを受領した後、30日間はシーケンシング実験を行うことができる。メンバーは試用期間中に預け金をGENIUS Systemの購入に充てるか、GENIUS Systemを返却するかを選択する。返却する場合は、預け金は全額返金される予定であると発表されている。なお、GENIUS Systemの価格や正式販売時期は公表されていない。どの国のユーザーでもGENIUS Clubへ加入することはできるが、競合企業はClubへの加入が制限される。

 GENIUS Systemに関する情報はメンバー間で共有される仕組みであるので、GENIUS ClubはOxford NanoporeのMinIONデバイスのMAP (MinION Access Programme) と同じアーリーアクセス形態といえる。

GENIUS Systemのシーケンシング原理の推定

  GENIUS Systemのシーケンシング原理については、これまで一切公表されていない。GOクラブでは、GenapSysが出願した特許の明細書をもとに、シーケンシング原理を推定し、2012年11月26日付けの記事にその内容を記載した。その後に出願された特許などを総合すると、「磁気ビーズ上で断片化DNAを増幅し、センサーアレイ内に格子状に磁気ビーズを並べた後、Pyrosequencing法により、4種類のヌクレオチドを順番に取り込ませて塩基配列を決定する」方法を用いていると推定される。「ナノニードル」という仕組みにより磁気ビーズ上のDNA電荷に基づく電気抵抗値を読み取り、ヌクレオチドの取り込みに伴って電気抵抗値が変化することに基づいて塩基配列を決定すると思われる。Pyrosequencing法ではホモポリマーのリード精度が悪いという問題点があるが、この問題点は電気抵抗値の測定でも多少解決されているようであるが、さらに放出されるピロリン酸(または水素イオンや熱)を別のセンサーで検出することにより、リード精度を向上させている可能性がある。

GENIUS Systemの特徴

  以前のGOクラブでも紹介したが、Ion Torrentシーケンサーのシーケンシング用半導体チップは再利用できないが、GENIUS Systemの半導体チップは磁気ビーズを洗浄することにより、再利用が可能であることが発表されている。したがって、シーケンシングコストは大幅に低減されるうえ、環境にもやさしい。
 シーケンサーのパフォーマンスは正式に発表されていないが、今までにウェブ上に公表された情報をもとにすると、最大リード長は1,000塩基を目指しており、また最大塩基配列出力は1チップ・1ランあたり100 Gbになるようである。

Sigma-Aldrichとの販売提携

  GENIUS Systemのアーリーアクセス開始の発表とほぼ同時に、Sigma-Aldrichが、GenapSysと提携して、GENIUS Systemで用いる消耗品を販売することを発表した。すでに、Sigma-Aldrichのホームページでは、GenapSys Personal DNA Sequencerが紹介されている。ただし、消耗品の種類・価格を含めて詳細な情報はまだ掲載されていない。

GenapSys vs Oxford Nanopore

  前回前々回のGOクラブで、Oxford Nanoporeのビジネスモデルが革新的であることを述べたが、今回のGenapSysのGENIUS ClubもOxford Nanoporeのビジネスモデルに近いものであり、革新的であるといえよう。GenapSysとOxford Nanoporeを比較した場合、シーケンサーの特徴に大きな違いがある。シーケンシング精度はGenapSysの方が優れており、Illuminaシーケンサーを脅かす存在になる可能性がある。一方で、Oxford Nanoporeのシーケンサーはリード長が長いという特徴があり、Pacific Biosciencesのシーケンサーを脅かす存在になる可能性がある。以前のGOクラブで、次世代シーケンサーの発展の歴史はコンピューター産業と似ていることを言及したが、まさに「大型メインフレームコンピューター」から「パーソナルコンピューター」にシフトする時代になったと感じる。