2015年7月24日金曜日

Complete Genomicsが新シーケンシングシステムを発表

 米国の次世代シーケンシング(NGS)技術開発ベンチャーであるComplete Genomics, Inc. (Complete Genomics) は、European Human Genetics Conference 2015(今年6月6日~9日、英国グラスゴー市で開催)で新しいNGSシステム“Revolocity”を展示・公開した。Revolocityは、サンプル調製からシーケンシング・データ解析まで全自動で実施できるシステムであり、Illumina HiSeq X Tenに対抗できる性能を有する。今回のGOクラブでは、Complete GenomicsのRevolocityを紹介する。


Complete GenomicsのNGS技術

  Complete GenomicsのNGS技術の内容については、以前のGOクラブで紹介した。その概要を以下に述べる。

 染色体DNAを200~400 bpに断片化した後に、2種類のアダプターを結合し、ライブラリーを作製する。このライブラリー中の各分子をRolling Circle Amplificationによって増幅し、“DNA nanoball”と呼ぶボール状のDNA増幅物が生成する。このDNA nanoballを、微小な穴 (直径300 nm)が格子状に整列したシリコンスライド (25 mm × 75 mm) に並べた後、cPAL(combinatorial Probe Anchor Ligation)法と呼ぶ方法を用いて、4種類の蛍光ラベルを検出して塩基配列を読み取る。塩基配列決定については、断片化したDNAの両末端から26 bpずつ読むことができる。

Revolocityの概要

  Complete Genomicsは、今年6月6日に、上述のサンプル調製とcPAL法によるシーケンシング反応をロボットを用いて全自動化したシステム“Revolocity”を発表したが、その概要を以下にまとめる。
 サンプル調製から塩基配列決定までが全自動化されているが、得られた塩基配列を参照ヒトゲノム配列に対してマッピングし、初期分析を終えるまでの日数は8日間である。解析対象はヒト全ゲノム解析とエキソーム解析のみである。塩基配列出力の能力については、ヒト全ゲノム解析を行う場合、冗長度50で、1年間で10,000人分の配列解析を行える。近いうちに、年間30,000人の全ゲノム配列を実施できるまでパフォーマンスを向上させる予定である。ヒト全ゲノム解析の場合、冗長度50で96%の塩基配列バリアントを検出できると発表された。価格は、サンプル調製機器もセットで、12百万ドル(約15億円)である。

RevolocityとIllumina HiSeq X Tenとの比較

  配列決定精度は両者の間で大きな差異はないと思われる。しかし、RevolocityはHiSeq X Tenと比較してリード長が短いのは欠点であり、SNV (Single Nucleotide Variation) の検出にも差が出るはずである。全ゲノム配列の決定能力に関しては、HiSeq X Tenは年間18,000人であるのに対して、Revolocityは年間10,000人であり、HiSeq X Tenより劣る。Revolocityは年間30,000人まで能力を向上させる予定であるというが、HiSeq X Tenも今後能力が上がる可能性もあるので、大きな差はないといってよいであろう。
 サンプル調製については、Illuminaの場合、サンプル自動調整機NeoPrep(価格49,000ドル)を今年2月23日に発売しており、RevolocityとiSeq X Tenの間で差があるとはいえない。なお、NeoPrepを用いると、1ランで最大16サンプルのライブラリーを調製でき、1日に2ランのライブラリー調製が行える。したがって、HiSeq X Tenに対して2台のNeoPreoを用意すれば、年間18,000ゲノムの配列を決定できる。
 Revolocityシステムは写真で見る限り、かなりのスペースを取るので、スペースセーバーという観点ではIlluminaが優れている。塩基配列決定による時間も、Illuminaの方が短く、おおむね半分であろう。価格はRevolocityが12百万ドルで、HiSeq X TenはNeoPrep 2台を含めると10.1百万ドルであるので、Illuminaの方が若干安い。
以上、総合すると、Illuminaシーケンサーに対してRevolocityシステムが特に優れているとはいえない。

Revolocityの販売戦略を推測する

  Complete Genomicsは2006年に設立され、2013年春に世界で最大のNGS企業である中国BGIに買収された。現在の従業員数は300人を越える。Complete Genomicsは、多数のアプリケーションが揃い、実績もあり、機器の保守もきちんとしているIlluminaに対してどのように対抗するのであろうか? コストが高くなりがちなIlluminaに対し、低コストを訴求しての大規模ゲノムセンター向け機器市場での普及やBGIの本拠である中国での普及をめざしているのではないか。いずれにせよ、Illumina HiSeqに対抗する意図で、BGI-Complete GenomicsがRevolocityを開発し、普及させる狙いがあると予想する。なお、オーストラリアのブリスベンにあるMater Health ServicesとオランダのナイメーヘンにあるTranslational Genomics at Radboud University Medical Center (Radboudumc) に設置されることが発表されている