2013年11月5日火曜日

Oxford Nanopore、ナノポアシーケンサーの早期利用プログラムを発表

 多くの研究者が待ち焦がれていたOxford Nanopore Technologies(Oxford Nanopore)のナノポアシーケンサーである“MinIONデバイス”が、早期利用プログラム(MinIONアクセスプログラム;MAPとして使用可能となることが発表された。このMAPについては今年11月末から登録が開始されるが、登録済ユーザの中からOxford Nanoporeが認めたユーザに対してMinIONデバイス配布され、シーケンシング実験を行うことができるようになる。今回のGOクラブでは、このMAPとMinIONデバイスの性能などについてレポートする。


MinIONアクセス・プログラム (MAP)

  MAPの登録受付は11月末に行われる予定であり、Oxford Nanoporeが承認したユーザのみ、MinIONデバイスの利用が可能になる。ユーザは、1,000ドルを支払うと、MinIONデバイス・フローセル・ソフトウェアツール一式を受け取ることができる。フローセルは、ナノポアと電極槽を含むものと予想されるが、MinIONデバイスにセットすることにより、シーケンシングが可能となる。以前、デバイス自体が使い捨て(ディスポーザル)になるとレポートしたが、今回の発表ではフローセルが使い捨てとなる。

 一定数量のフローセルは無料で供給される。また、MinIONデバイスを受け取るときに支払う1,000ドルについては、MinIONデバイスを返却するときに返金される。ユーザが実質支払うお金は、MinIONデバイスやフローセルの輸送費のみである。エキストラのフローセルが必要なときには、999ドルを支払えば、供給されるようである。

 ユーザは、最初の一定期間、テストサンプルを用いて試験的シーケンシングを行い、データをOxford Nanoporeに送る必要がある。この試験の後、各自のサンプルを用いてシーケンシング実験を行うことができ、また学術的発表を行うことも自由である。フローセルは使用後に水で洗浄し、Oxford Nanoporeに送り返す必要がある。

 なお、MAPユーザは、近い将来GridIONデバイス(MinIONデバイスの上位機種)が利用可能になったときに、GridIONデバイスを優先的に利用できる特典が受けられる。

予想されるMinIONデバイスのスペック

  2012年2月に発表されたMinIONデバイスのスペックについては、以前のGOクラブで紹介した。今回発表されたMinIONデバイスのスペックに関しては、インターネット経由で得られる情報などを総合すると、下表のようになると推測される。

 デバイスの形状・大きさデバイスは再デザインされ、その大きさは、以前のほぼ半分となった(スマートフォンの半分程度の大きさ)。パソコンのUSBポートに接続して利用する。
 リード長現バージョンのリード長は、以前の発表値よりも短く、5~15 kbらしい。
 リード精度 リード精度については、以前も報告したようにエラー率が1%程度と見込まれる。なお、リード精度は、リード速度に依存するようだ。
 フローセルの寿命 シーケンシングを行う際に流れる電流がフローセルの電極を崩壊することにより、フローセルが使えなくなり、その寿命は6時間であるらしい。
 フローセルの繰り返し利用利用時間の合計がフローセルの寿命時間に達するまで利用できる。したがって、1時間×6回というような利用も可能となるようである。ただし、異なるサンプルを続けてシーケンシングするときに、クロスコンタミネーションが起こるかどうかについては不明である。
 ナノポア数/フローセル以前、MinIONデバイスのナノポア数は500個と発表されている。
 配列出力量/フローセル以前の発表では、配列決定速度は20~400塩基/秒である。数十Mb~数百Mb(10~100 Mb/時間)と推測される。

ライブラリーの作製法

  今年9月初めに英国Nottinghamで開催されたUK Genome Scienceミーティングで、Oxford NanoporeのClive Brown博士が、5’端が突出末端となった2本鎖DNAであれば、いずれのDNAもナノポアシーケンシングに供することが可能であることを紹介した。また、Clive Brown博士は、Tranposaseを用いたライブラリーの作製法についても言及した。この方法は、ウェブ上の情報も総合すると、次のような仕組みである。

(ステップ1) Transposaseには、2種類の小DNA断片(loop構造を持つDNAと5’/3’アダプター)が予めロードされている。TransposaseはターゲットDNAにこれらDNA断片を転移する。loop構造のDNAはターゲットDNAの2本鎖を結び付ける役割をしている。5’アダプターは突出末端となっているので、DNAがナノポアに入るのを助ける。また、5’アダプターは特殊なモチーフまたは化学修飾を有しているので、その物理的障害により、電流を流さない限りDNAはナノポア内を移動しない。3’アダプターには疎水的分子が結合しており、ナノポアが埋め込まれている膜に、ターゲットDNAの3’末端が付着することを助けている。この膜への付着により、ターゲットDNAは容易にナノポアの入口を探すことができる。

(ステップ2) 2種類の小DNA断片が正しく転移しないターゲットDNAも生じる可能性もあるが、ステップ1に示した機構に基づき、正しく調製されたターゲットDNAのみがシーケンシングされる。ターゲットDNAは、電位差をかけると2本鎖DNA部分が解きほぐれながら、1本鎖DNAとしてナノポアを通過する。そして、イオン電流の変化をもとに塩基配列が決定される。

(ステップ3) ターゲットDNAは末端がloop構造を持っているので、2本鎖DNA部分が完全に解きほぐれると、ターゲットDNAのナノポア通過速度は速くなり、塩基配列の解読は困難になると予想する。最終的に、膜に付着している3’末端が遊離し、ターゲットDNAは完全にナノポアを通り、反対槽に移動する。

 このTranposaseを用いたライブラリーの作製法は、PCRを用いない方法であり、最初は5本のEppendorfチューブから成るキットとして提供される。将来的には、1本のチューブを用いるキットを提供することを目指しているようである。

今後の予想

  Oxofrd Nanoporeは、正式な市販前にMAPを提供する理由として、MinIONデバイスの品質と性能について試験を行い、改良すべき点があるかテストすることを挙げている。MAPユーザは、各自のシーケンシングデータをOxford Nanoporeに送信する必要がある。また、Oxford Nanoporeは、今年10月9日に、ナノポアシーケンサーの市販と工業生産に向けて64百万ドル(約64億円)の資金調達を行うことを発表した。Oxford Nanoporeは、MAPで供給されるMinIONデバイスの数は数百個であると発表されているので、この資金により生産ラインの拡充を行い、近い将来正式な販売が始まるはずである。その市販開始は、1年後くらいと予想する。