2013年3月11日月曜日

NGSの世界最大イベント“AGBT”での次世代シーケンサーに関する話題

 毎年次世代シーケンシング(NGS)に関する最新の技術が発表される“Advances in Genome Biology and Technology Meeting (AGBT2013)”が、今年は2月20~23日の4日間に渡って、例年と同じくフロリダ州Marco Islandで開催された。AGBT2013では、昨年注目を集めたOxford Nanoporeのナノポアシーケンサーについては全く発表がなく、話題の中心はNGSの医療領域への応用であった。今回のGOクラブでは、AGBT2013での新しいNGS技術に関する発表・展示を中心に話題を提供したい。


QIAGENの次世代シーケンサー“GeneReader”

 昨年7月11日付のGOクラブで、核酸精製のトップメーカーであるQIAGENが米国の次世代シーケンサー開発企業であるIntelligent Bio-Systems (IBS)を買収したことを紹介したが、QIAGENは今回のAGBT2013で、IBSが開発したシーケンサーを製品名“GeneReader”として今年中に発売することを発表した。発表されたGeneReaderの性能は2011年5月10日のGOクラブで紹介したPinPoint Miniと同等である。GeneReaderはシーケンシング用の20個のフローセル(各セルの配列出力は約2 Gb;リード長は推定55 bp)を持つが、それぞれのセルは独立にシーケンシング反応を行えるので、便利である。

 また、同社はQIAcube(完全自動核酸単離精製システム)、GeneReadTM DNAseq Target Enrichment遺伝子パネル、QIAcube NGS(GeneReader用シーケンシング鋳型調製機)ならびにSAPとの共同開発によるGeneReader用ソフトウェアを合わせて提供する予定であることを発表した。これらを統合的に扱うことにより、いわゆるSample-to-Answer型(QIAGENはSample-to-Resultと呼んでいる)のソリューションとなることが魅力的である。

GnuBIO、β版シーケンサーを4月1日から出荷

 GnuBIOは、β版シーケンサーを今年4月1日から特定のユーザーに出荷すると発表した。市販予定品はデスクトップコンピューターサイズで、価格は50,000ドルの予定である。GnuBIOシーケンサーは機器が安価で、シーケンシングコストが安いだけでなく、サンプルを入れると完全自動で約3時間後に配列と変異箇所のデータが得られる点(真の意味でも“Sample-to-Answer型”)でも魅力がある。さらに、AGBT2013では、City of HopeのグループがGnuBIOシーケンサーを用いてシーケンシングを行うことにより、QV70(1千万塩基に1個のエラー率)でリード長が1,000 bpの配列(1ランの合計出力は1.2 Gb)が得られたこと、しかも9 pbまでのホモポリマーの配列決定もQV70の精度であることを発表した。配列長が長いだけでなく、リシーケンシングとは言え、驚くべき精度と思う。

Ion Torrent

 Ion TorrentのJonathan Rothberg氏は、Ion Torrentシーケンサーのロードマップを発表した。発表内容はこれまでにGOクラブで紹介した記事の内容を越えるものではなかったようだ。PCRを用いない新しいDNA増幅・サンプル調製法であるAvalancheに関しては、詳しいメカニズムについては公表されなかったようである。ビーズ上でもIonチップのウェル上でもDNA増幅を行うことができ、リード長も約600 bp読めることが発表された。

NABsysによる世界初のソリッドステートナノポア1分子DNA分析機の発表

 ABGT 2013での全く新しいシーケンサーの発表は、NABsysのNPS 8000(pre-beta version)である。NABsysはこの機器をsequencerと称しているが、現段階では塩基配列を決定できるものではないので、タイトルにはDNA分析機という語を用いた。NABsysのシーケンシング技術は、以前のGOクラブで紹介したが、長鎖の1本鎖DNAを鋳型として、短いオリゴDNAをハイブリダイズさせた後、DNAがソリッドステートナノポアを通る時に、1本鎖部分と2本鎖部分の電流値が異なるという原理に基づいて、2本鎖部分を同定するというものである。NABsysのNPS 8000(pre-beta version)では、長鎖DNA中の2本鎖DNA領域をマッピングできたという段階のようである。

PicoSeqの1分子DNA分析機の発表

 PicoSeqはフランスのベンチャー企業であるが、原理的にはDNA配列決定も行える可能性があるSIMDEQ (SIngle-molecule Mechanical DEtection and Quantification) 技術を開発した。本技術は、2本鎖DNAの一端をフローセル上に固定し、もう一端に微小磁気ビーズを付着させる。磁場をかけることにより2本鎖DNAが解きほぐす(un-zip)、逆に2本鎖に戻す(re-zip)ことができ、その過程でのDNA長を測定することが基本原理である。DNA分析については、短い配列がわかっている1本鎖DNAを加えることにより、re-zipのときにハイブリダイズする短い1本鎖DNAに起因する障害を検出する原理を用いている。したがって、上述のNABsysのシーケンサーに近いものであり、現時点ではシーケンシングできるかどうか定かではないので、タイトルは1分子DNA分析機とした。