2013年1月23日水曜日

IlluminaシーケンサーとIon Torrentシーケンサーに関する最近の話題

 最近「Illuminaがベンチャー企業Moleculo, Inc.(Moleculo)を買収して、Illuminaシーケンサーのリード長を大幅アップさせる」というニュースが流れているが、今回のGOクラブでは、このリード長の問題を中心に、IlluminaシーケンサーとIon Torrentシーケンサーに関する最近の動向について紹介する。


Illuminaシーケンサーに関する最近の話題

・Illuminaシーケンサーのリード長が最大15 kbになる!?
 
今年1月8日付で、MoleculoがIlluminaシーケンサーで最長15 kbのリードのデータが得られる技術を開発し、さらにIlluminaがMoleculoを買収するというニュースが流れた。本技術に関しては、Moleculoのホームページを含めて詳細は全く発表されていないので、「リード長が15 kbのものが得られるかもしれない」という噂も流れた。結局のところ、1リード長として15 kbが得られるのではなく、ショートリードのデータをつなぎ合わせてコンティグとして最大15 kbのデータが得られる技術であることがわかった。詳しくは、BIO-IT Worldの記事“Moleculo Man: Mickey Kertesz on Illumina’s Long-Read Acquisition”で、記者がMoleculoのメンバーとインタビュー形式で得られた情報をまとめているので、その記事を参照してほしい。

 科学的に正しい内容としては、Moleculoが公開した「Plant & Animal Genome XXIでの発表のAbstract」を参照してほしい。BIO-IT Worldの記事このAbstractを読むと、細胞から調製した高分子量DNAをもとに、ペアエンドで読めるライブラリーを作製した後、Illuminaシーケンサーで配列決定を行い、得られたリードをバイオインフォマティクス的手法によりつなぎ合わせて「長いリード」を得るというものである。したがって、Complete Genomicsが開発したLong Fragment Read(LFR)技術に近い技術と言える。なお、Moleculoの技術を用いた場合、LFR技術のように、ハプロタイプのコンティグの配列が得られるかどうかは、現時点では定かではない。ショートリードをアセンブルしても長いContigが得られるので、ハプロタイプのコンティグの配列が得られないと大きなメリットがないと思われる。

 Moleculoのメンバーの話では、この技術は原理的にIon TorrentやSOLiDなどのシーケンサーにも使えるものであるが、現在巨大ゲノムのde novo sequencingの多くがIlluminaシーケンサーにより行われているので、Illuminaシーケンサー用に開発を進めたようである。また、MoleculoがIlluminaに買収されたので、この技術は他のシーケンサーで使えるようになる可能性がほとんどないであろう。

Illuminaシーケンサーのリード長が300 bpへ
 現時点では、Illumina MiSeqシーケンサーを用いると、リード長が最大250 bpで、1ランあたり39時間の反応により最大8 Gb前後のデータが得られる。今年1月8日開催のJP Morgan 2013 Healthcare ConferenceにおけるIlluminaの発表によると、今年このリード長が300 bpになる予定であることが発表された。また、フローセルの改良も行われ、クラスター数が2500万になり、1ランあたりのデータ量も最大15 Gbになる予定である。

 また、HiSeq2500の性能も向上し、リード長が250 bpになり、2×250 bpのペアエンド・モードの配列決定も可能になる。この改良により、Rapid Run modeで、1ランあたり最大300 Gbの配列データが得られるようになる。


Ion Torrentシーケンサーに関する最近の話題

 Life Technologies/Ion Torrent は、昨年9月13日に開催した“Ion World 2012”において、新しいライブラリー作製技術“Avalanche”と自動シーケンシングサンプル調製機器“Ion Chef”を発表した。また、昨年12月19日付のプレスリリースJP Morgan 2013 Healthcare Conferenceでの発表内容をもとに、Ion Torrentシーケンサーに関する最近の話題を以下にまとめる。

・新しいシーケンシングサンプル調製技術Avalanche  現在のIon Torrentシーケンサーでのシーケンシングサンプルの調製は、微小ビーズ上でエマルジョンPCR法を用いて行われている。昨年9月に発表されたAvalanche技術は、エマルジョンPCRを用いない方法であることが明らかにされた。技術の詳細については公表されていないが、「Illuminaのフローセル上でのブリッジ増幅」や「SOLiDのプレート上での増幅」のように、マイクロチップのウェル内に1分子のサンプルDNAを結合させた後、ウェル上でDNA増幅を行うものと推測する。このAvalanche技術の導入により、サンプル調製が簡易になるほか、シーケンシング用Ion Chipの集積度を上げることができる。Avalanche技術により、1チップあたり12億個のウェルを設置したIon Proton IIIチップの開発も可能となり、1リード200 bpの場合には数時間で250 Gbの塩基配列を出力できる性能となる。下記に述べるように、1リード400 bpとなれば、1ランで500 Gbの出力も達成できるであろう。

・自動シーケンシングサンプル調製機器“Ion Chef” この機器はChef(料理長)の名前のとおり、シーケンシングサンプルを良好の状態で調製するための自動化機器である。各種DNAライブラリーの作製は別途キットが発売されているので、“Ion Chef”はDNAライブラリーをもとにエマルジョンPCRやIonチップへのビーズ注入などを実施する機器である。

・Ion Torrentシーケンサーのリード長が400 bpへ すでに、Ion Torrentシーケンサーのリード長は400 bpになることは発表されているが、Life Technologiesは昨年12月19日にIon Torrent PGMシーケンサー用のシーケンシングキットとして、1リードで400 bp読めるキットを発売することを発表した。シーケンシング時間は延びて4時間となる。また、これまでIon Torrentシーケンシング法の欠点であったホモポリマー部分の配列決定精度に関して、8~9 merのホモポリマーまでの精度が向上されることも発表された。

・Ion Total RNA-Seq Kit for AB Library Builder このキットは、Ion Torrentシーケンサーを用いてRNA-Seqを行うためのキットである。このキットを使うと、mRNAだけでなく、small RNAを鋳型としても、簡便かつ高速にcDNAライブラリーの作製を行うことができる。

・Thermo Scientific MuSeek Library Preparation Kit
 本ライブラリーキットは、IlluminaシーケンサーのEpicentre・Nextera Technologyを用いた超迅速ライブラリー調製に対応するものである。以前のGOクラブでも紹介したように、IlluminaはNextera Technologyを開発したEpicentreを買収し、シーケンシング用ライブラリーの作製を高速化・簡便化するキットを発売し、この工程に関しては、Ion Torrentシーケンサーより優位性があった。今回発表したLife Technologiesが開発したキットを用いると、Illuminaのキットと同様に、約1時間半でライブラリーを調製することができる。