2012年6月13日水曜日

個別化化粧品と使い捨て半導体DNAセンサー

 これまでのGOクラブでは何回かに渡って、携帯可能な次世代シーケンサーに関する話題を提供してきたが、特定のDNAの検出や定量に利用するポータブル半導体デバイスの開発も進んでいる。しかもIon TorrentのシーケンサーのIonチップのように、半導体チップの多くは使い捨てとなる。今回のGOクラブでは、DNA Electronics Ltdが開発を進める「使い捨て半導体DNA分析デバイス」を紹介する。また、On-the-site(顧客を前にした現場)で遺伝型解析サービスの提供を企画しているGeneONYX Ltdとの連携による「個別化化粧品」サービスの展開についても紹介する。

DNA Electronics Ltdとは

DNA Electronics Ltdは、Christofer Toumazou氏が、イオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)を用いて、酵素反応により放出される水素イオン(プロトン)を検出する技術をベースとして、2003年に英国ロンドンで設立したベンチャー企業である。Ion Torrentは、DNA合成時に放出される水素イオンの検出に基づくIon PGMシーケンサーを開発したが、このシーケンサーにはDNA Electronicsの技術が利用されているDNA ElectronicsはRocheにも本技術のライセンスを与えていることから、Rocheも、水素イオン検出のISFETを用いた次世代シーケンサーまたはDNA分析デバイスの開発を進めていると思われる。

DNA Electronicsの定量PCRプラットフォーム-Genalysis

DNA Electronicsは、マイクロチップ内でPCR反応を行って合成されるDNA量を水素イオンでモニターできる“Genalysis”技術の開発を重点的に進めている。Genalysis技術については、国際特許WO/2008/107014(qPCR using solid-state sensing)として出願され、本特許はヨーロッパでは2010年9月1日に、また米国では2011年2月1日に成立している。以下に、本特許の内容とDNA Electronicsのホームページの情報をもとに、Genalysis技術の概要をまとめる。

 上記特許には、Genalysis技術の応用例として、サンガーシーケンシングも記載されているが、主な出口となる定量PCR(qPCR)への適用例を右図を使って説明する。Genalysis技術を使ったqPCRは、マイクロチップ内にDNAサンプルを注入し、PCR反応を行い、DNA伸長過程で生成する水素イオンをISFETで検出することにより、合成されるDNAを定量する。マイクロチップ内には、PCR反応を行うために「DNA変性用の95℃」「プライマー・アニーリング用の55℃」「DNA伸長反応用の72℃」の温度が異なる3つの領域がある。上図の例では、左から右に向かってサンプルが移動することにより、連続的にPCRのサイクルが繰り返されることになる。また、95℃、72℃、55℃の領域を単に往復してPCRを行う例も開示されている。各流路(特にDNA伸長反応部分)の下面にはISFETが装備されており、水素イオンを検出できるようになっている。したがって、上図の例では、右に行くほど、DNA増幅により発生する水素イオンのシグナルが増加する結果となる。

 各流路の断面拡大図(図中の下方)に示すように、酵素やdNTPsなどは窒化シリコン層の上に乾燥状態で置かれているので、サンプル水溶液が到達すると溶解してPCR反応が進む仕組みである。PCRプライマーは、サンプル中に混合してよいし、酵素/dNTPsと混合してもよい。

 上図では、マイクロ流路中でサンプル溶液を移動させてPCR反応を行う例を示した。これ以外の方法としては、Ion Torrentのシーケンサーのように、マイクロビーズ上にサンプルDNAを固定してPCR反応を行ってもよい。また、目的DNAをトラップするための合成DNAをISFET上に固定したフローセル法により、PCR反応を行うことも可能である。いずれの方法でも、上図のような固定温度のヒーターでなく、温度を変化できるヒーターを利用したPCR反応を行うことになる。

 この半導体DNA分析デバイスの応用範囲であるが、「個別化医療」や「病原体検査」のみならず、「食品素材などのトレーサビリティー分析」や後述する「個別化化粧品」などにも利用されるようになると予想される。1つのチップで1種類の遺伝子検査を行う単純な分析だけでなく、1つのチップで(PCRプライマーを変えることにより)多遺伝子検査を行えるようになるであろう。これらの目的に使うデバイスは携帯可能になるはずであるが、多サンプルを検査する目的に使うデバイスは、多くのサンプルを注入する装置も必要となることから、携帯可能にすることは簡単でないと予想する。

GeneONYXとの提携と個別化化粧品への展開

DNA Electronicsは、上記デバイスの「個別化化粧品」サービスへの活用について、SNP解析をon-the-siteで行うサービスの提供を目指すGeneONYXと提携したことを、今年3月19日に発表した。個人のSNP情報をもとにした「顧客別個別化サービス」に関しては、「個別化医療」はかなり開発が進んでいるが、「個別化化粧品」サービスビジネスは初めての例になると思われる。
 次世代シーケンサーによって得られる個人ゲノム情報を取り出せるスマートフォンを携え、適宜on-the-siteでもDNAシーケンシング/DNA分析を行うことにより、各種サービスが受けられる時代も間近に迫ってきた。