2012年2月9日木曜日

未来を考える(第2回:次世代シーケンサーの現在・過去・未来

 本記事の著者が次世代シーケンシング技術に出会ったのは約15年前である。当時は「円盤状のマイクロ流路技術によるサンガーシーケンシング」、「Lynx Therapeuticsのマイクロビーズ状のシーケンシング(Massively Parallel Signature Sequencing)」、「ハイブリダイゼーションチップを用いたのシーケンシング法」などの開発が進んでいた。今回のGOクラブでは、次世代シーケンシング技術の誕生と進歩を振り返るとともに、次世代シーケンサーの未来を考察してみたい。


次世代シーケンサーの誕生と発展

 Celera GenomicsのJ. Craig Venterらが、Sanger法利用のキャピラリーシーケンサー3700を用いて、2000年にヒト全ゲノムの配列を決定し、Sanger Sequencing(第1世代シーケンシング技術)の歴史は頂点に達した。その後、次世代シーケンシング技術の開発が加速化し、454 Life Sciencesが2005年10月に次世代シーケンサーを発売した。以前のGOクラブでも紹介したが、Lynx Therapeuticsの技術はSolexaのSequencing-by-Synthesis技術と合体し、2006年にIlluminaシーケンサーを誕生させた。また、ハーバード大学・George Churchらが開発したPolony Sequencing法をベースにしたSOLiDシーケンサーは2007年秋に発売された。いずれのシーケンサーもビーズ/フローセル上でDNAを増幅し、塩基を蛍光で検出するという原理を利用している。約10年前は、数百台のサンガーシーケンサーで「1人」の全ヒトゲノムが解析できる時代であったが、これら次世代シーケンサーの誕生により、数百台の次世代シーケンサーにより「1,000人」のヒトゲノム解読が達成できる時代が到来した。

次世代シーケンサーの現在

 次世代シーケンサー開発の目標は、短時間でコスト$1,000でヒト全ゲノム配列を解読できる機器を開発することであった。前回のGOクラブで紹介したが、Ion Torrent Proton SequencerとIllumina HiSeq2500の誕生により、その目標達成に大きく近づいたと言える。現在市販されている次世代シーケンサーは、いずれもライブラリー調製からシーケンシング用サンプル調製までの工程で手間がかかることが欠点である。また、リード長はPacBio RSシーケンサーは2 kbを超えているが、配列決定精度は悪い。今後はこれら課題を解決することが目標となる。
スループットに関しては、454 Life Sciencesが発売した最初のシーケンサーは1ラン、1日あたり20 Mbの出力であったが、今年発売されるIon Torrent Proton SequencerとIllumina  HiSeq2500 Sequencerは、1ラン、1日あたり50~120 Gbの配列を出力できる予定である。したがって、次世代シーケンサーの性能は、1年で平均約3倍、2年で約10倍の速度で向上し続けてきたことになる。前回のGOクラブでも考察したが、Ion Torrent Proton Sequencerを用いると、1台のシーケンサーで1年間に1000人の全ゲノム解読を行うことも可能であるスループットとなった。

次世代シーケンサーの未来

 Oxford nanoporeが2月1日に「今年中にナノポアシーケンサーを発売する。」ことをプレスリリースした。今年はいよいよナノポアシーケンサーの登場の年になる。Oxford nanoporeの後をNABsysとNobelGenが追う。
 これまでに登場した次世代シーケンサーのすべてが酵素を利用しているので、DNA合成が進むと、エラー率が高くなるとともに反応も途中で止まってしまう。ナノポアシーケンサーを用いた場合、この酵素が持つ欠点を解決できることが期待される。すなわち、ナノポアシーケンサーの目標は、「シーケンシング・バイアスがない、長く読める、均一な精度で配列決定が行える1分子シーケンサー」である。さらに、DNA断片のサイズセレクションなど煩わしいライブラリー調製がいらない、またリンカー連結などのシーケンシグ用サンプル調製も不要であるシーケンシング技術になることが望まれる。

 酵素を利用したシーケンサーの場合には、種々の試薬類の供給などが必要なために、機器は大型になる。データ検出とデータ1次処理をCMOSチップ内で行うことを実現したIon Torrent Sequnecerでも小型レーザープリンターほどの大きさになる。一方、ナノポアシーケンサーはチップ中で電位差だけを検出すればよいので、機器は小型になる上、消費電力も非常に少なくなるであろう。したがって、ナノポアシーケンサーの場合、持ち運び自由な電池駆動のポータブル機器も登場する可能性も秘めている。

 上述のように、次世代シーケンサーは、これまで2年に10倍の速度で性能が向上してきたが、今後はその進化の速度は鈍化するのではないかと予想している。むしろ、上述の酵素利用技術が持つ欠点を解決する質的進化が起こることを期待したい。
 Ion Torrent Proton Sequencerの誕生により、1台のシーケンサーで1年間に1000人の全ゲノム解読を行うことも可能になったが、次なる目標は、Complete Genomicsが目標として掲げている、1000人の1000倍である「100万人」の全ゲノムシーケンシングであろう。すなわち、1つの企業が、100万人単位、すなわち売上高で10万円×100万人=1000億円のシーケンシング解読を行うことが目標となろう。この目標を実現するには、 1日2ランで、1ランあたり1 Tb (1000 Gb;現在の約10倍の性能) の配列を出力できるシーケンサーを開発できたと仮定すると、1日で16人の全解読、数百台で1年間で100万人の全ゲノムシーケンシングが行える。これは、今後5、6年後に実現できそうな数値目標であろう。