2012年1月25日水曜日

Ion Torrent 新シーケンサー発売へ

 新年明けてから、「Ion Torrentの新シーケンサーProton Sequencerの発売」と「Illumina  HiSeq2500 Sequencerの発売」という2つの大きなニュースが発表された。Ion Torrent は、"The Chip Is The Machine."と謳っていたので、新シーケンサーの発売は当面ないと思っていた。したがって、今回のIon Torrent Proton Sequencerの発売は意外であった。今回のGOクラブでは、Proton SequencerとPGM Sequencerを比較して、それぞれの用途について考察してみたい。


Proton Sequencerの性能と他のシーケンサーとの比較

 Life Technologiesが1月10日に発表したプレスリリースの内容やLife Tech.のホームページの情報などから、Proton Sequencerの性能とPGM Sequencerとの比較を下表にまとめた。両者とも、ベンチトップシーケンサー(デスクトップシーケンサー)と位置付けられるが、Proton Sequencerの出力量(リード長200 bpのときに1ラン=60 Gb)はPGM Sequencerと大きく異なっていることがわかる。
 ライブラリー構築の時間はライブラリーの種類により異なるが、通常の200 bp程度の断片ライブラリーであれば、 New England Biolabs NEBnext Fast Library Construction Kitsを使えば、約2時間で終了する。したがって、シーケンシングに要する時間はProton Sequencerの場合、最短約11時間(2時間+4時間+5時間)と見込まれる。
 ここで、Proton SequencerをIlluminaのシーケンサーと比較してみよう。Proton Sequencerは、ベンチトップシーケンサーであるIllumina MiSeqと比較すべきと思われるが、むしろIlluminaが最近発表したHiSeq2000の後継機であるHiSeq2500と比較すべきであろう。HiSeq2500は、通常モードでは2つのフローセルを用いると、600 Gbの配列が11日で得られ、また別のモードでは最短27時間で120 Gbの配列が得られることが発表された。Proton Sequencerも近い将来リード長が400 bpになり、出力量も120 Gbになると予想されるので、Proton SequencerはHiSeq2500の競合となるであろう。
 以前のGOクラブで、Ion Torrent のシーケンサーの利点として、テンプレート調製とシーケンシング反応が別々に行え、かつシーケンシング時間が短いことを紹介した。よって、Proton Sequencerで1日3ランのシーケンシング(1日3人の全ゲノムシーケンシング)を行えると想定すると、1年間(365日間)で1,095人の全ゲノムシーケンシングが行えることになる。「お手軽な1台で、1,000人ゲノムを1年で達成!」である。
 一方、Illumina HiSeq2500で、2つのフローセルを同時に使って通常モードで配列決定を行うと、11日間で4人の全ゲノムシーケンシングが行える。したがって、365日間で132人の全ゲノムシーケンシングが行えることになる。これはProton Sequencerの「8分の1」のスループットである。HiSeq2500で最短27時間-出力量120 Gbのモードでシーケンシングした場合、1.5日で1ランを行うと、365日間で243人の全ゲノムシーケンシングが行えることになる。これはProton Sequencerの「4.5分の1」のスループットである。
 以上、Proton Sequencerは安価なベンチトップシーケンサーでありながら、Illumina HiSeq系シーケンサーを超えるポテンシャルを有していると言える。

項目\シーケンサー
Proton Sequencer
PGM Sequencer
リード数
8000万~3億0000万 (推定)
100~500万
塩基配列出力量
(1 リード長 = 200 bpの場合)
15~60 Gb (推定)
20 Mb~1 Gb
テンプレート調製時間
(Ion OneTouch利用時)
3~4時間 (推定)3~4時間
シーケンシング時間4~5時間 (推定)1~4.5時間
(チップとリード長により異なる)
シーケンサー価格 (米国)$149,000
(サーバー=$75,000)
(Ion Proton OneTouch =未定)
$49,500
(サーバ=$16,500)
(Ion OneTouch =~$15,000)
利用可能時期2012年第3四半期
 (Early Accessは2012年中頃)
発売済


Proton Sequencer用Chipと従来のIon Chipとの比較

 Life Technologiesが1月10日に発表したプレスリリースの内容やLife Tech.のホームページの情報などから、Proton Sequencer用Chipと従来のIon Chipとの比較を下表にまとめた。
 Ion Proton Chipは、Ion 316/318よりと比べてセンサー数が大幅に増加している。チップのサイズは若干大きくなっている程度なので、センサーウェルはかなり小さくなっていると想定される。Life Technologiesは「1,000ドルゲノム達成、しかも1日以内でヒト全ゲノムシーケンシングである。」と謳っているが、1,000ドルは当面チップの価格である。この謳い文句から、Ion Proton II は1,000ドルで発売され、と同時にIon Proton I の価格はディスカウントされると予想される。

項目\チップ
Ion Proton I
Ion Proton II
Ion 314
Ion 316
Ion 318
センサー数
1億6500万個6億6000万個120万個610万個1100万個
リード数
7500万 (推定)
3億 (推定)
~10万
~100万
~500万
塩基配列出力量
(リード長= 200 bpの場合)
~15 Gb (推定)
~60 Gb (推定)
~20 Mb
~200 Mb
~1 Gb
利用可能時期2012年第3四半期
 (Early Accessは
2012年中頃)
2013年初め発売済発売済2012年1月発売
価格 (米国)$1000 (予定)未公表$99$299$500


Proton SequencerとPGM Sequencerの用途

 冒頭でも述べたが、Ion Torrent シーケンサーは、機器はしばらくの間同一で、チップのみが進化すると予想していた。上述のように、Proton SequencerとPGM Sequencerとは塩基配列出力量が大きく異なる。Ion 316/318系チップとIon Proton系チップではサイズが異なるので、Ion 316/318系チップはProton Sequencerには使えないと予想される。利用者としては、1つの機器ですべての実験ができることが望ましいが、両機種の用途は大きく異なるであろう。Proton Sequencer用の小型チップが開発されないことを前提とすると、Proton Sequencerはエキソーム解析も含めて高等動物全ゲノム解析に向いており、PGM Sequencerは微生物ゲノム解析やAmpliconシーケンシングに向いている機種と言えよう。
 弊社が次世代シーケンシング解析サービスを始めたのは約4年半前であるが、GOクラブの企画は約2年前に今回紹介したIon Torrent シーケンサーに出会ったことがきっかけで開始した。「Ion Torrent シーケンサーが、将来1台1ランでヒト全ゲノムシーケンシングを達成できるであろう。」という記事を書いたが、2年後には実現されることになった。驚くほど速い進歩である。