2011年9月7日水曜日

2011年度のNHGRI-$1000次世代シーケンシング技術 (パート1)」

 2011年8月22日付で、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が新しい次世代シーケンシング技術開発の研究グラントである“Advanced Sequencing Technology Awards 2011”を供与する「9種類の新技術」を発表した。9種の技術のうち、1種はコンティグ形成に関する技術であり、残る8種のうち5種はナノポアシーケンシングに関係ある技術であり、1種は全く新しい塩基認識法の開発を目指している。その他の3種類は、DNAポリメラーゼを用いた1分子シーケンシング、エキソヌクレアーゼを用いた1分子シーケンシング、そして電子顕微鏡による1分子シーケンシングである。このNHGRIのグラント($1000ゲノムプロジェクト)により、膨大な種類の次世代シーケンシング技術が誕生し、新技術が出尽くした感があったが、最後に挙げた3種類のシーケンシング技術はいずれも新しい原理に基づくものであり、米国の物凄い先端技術開拓パワーを感じさせられる。
今回のGOクラブでは、2011年度のグラントに当選した9種の技術のうち、5種のナノポアシーケンシングの概要を紹介する。残りの4種類の技術については、次回のGOクラブで紹介する。


ナノポアシーケンシング用のDNAポリメラーゼの改良 (Univ. California Santa Cruzなど)

DNAポリメラーゼがナノポアシーケンシングと関係あるのかと、不思議に思われるかもしれない。ナノポアシーケンシングの大きな課題は、DNAがポアを通過する速度が速すぎるために、塩基配列を精度よく認識できない点である。Univ. California Santa Cruzの Mark A. Akeson博士らは、この課題を解決するためにDNAポリメラーゼ Phi29を用いてDNAをポアに送り込む速度を調節する技術を開発している。なお、Akeson博士らは、Oxford Nanopore社と共同で研究しているので、研究成果はOxford Nanopore社のナノポアシーケンサーに生かされるものと予想される。
本グラントでの4つの目標は、(1) Alpha hemolysinタンパク質ポアでDNAポリメラーゼ Phi29によるDNA移動を正確に制御できるようにする、(2) DNAポリメラーゼ Phi29が、MspAタンパク質ポアと窒化ケイ素セラミックスのソリッドステートポアで機能するか、またAlpha hemolysinポアよりも優れているか調べる、(3) DNAポリメラーゼの変異により耐塩性を向上させて、反応液中の塩濃度を高くすることにより、塩基配列の解読精度を向上させる、そして(4) ナノポアシーケンシング機器を作製して、48 kbまでの長さのDNAを用いて塩基配列を読めるかどうか実証することである。

Nanoporesを持つ1層Graphen-Nanoribbonsを用いたシーケンシング技術 (Univ. Pennsylvania)

以前GOクラブでも紹介したように、Univ. Pennsylvaniaの Marija Drndic博士らは、GraphenナノポアにDNAを通す研究を行っているが、本グラントでは、Graphenのナノリボン状のポアにDNAを通すことにより、生じる電流変化により塩基配列を読み取ることを目指している。

DNA延長とそのナノポアシーケンシング (Stratos Genomics, Inc.)

Stratos Genomicsは、様々な先端電子機器を開発しているStratos Group LLCから2007年にスピンオフすることにより設立された「次世代シーケンス技術開発ベンチャー」企業である。
Stratos Genomicsの技術は、2本鎖DNAを1本鎖にした後、reporter elementを持つハイブリしうるプローブで、片方が切断可能な構造をもつオリゴヌクレオチドを順次ライゲーションしていく。ライゲーション後、denatureして、合成したDNA1本鎖を、ナノポアに通す。ナノポアを通る時に、FRETでreporter elementを読み取っていく (4bpずつ読み取ることになる) という方法である。本グラントでは、この技術の実用化を目指す。なお、Stratos Genomicsの技術は興味深いものがあるので、GOクラブで再度詳しく紹介することにしたい。

Recognition Tunnelingを用いたナノポアシーケンシング (Arizona State Univ., Stuat Lindsay)

Arizona State Univ.のStuat Lindsayらが開発を進める本提案の「トンネル電極を用いたシーケンシング法」については、GOクラブでも以前紹介した。Lindsayらは、DNAの各4塩基と水素結合を形成しうる化合物を用いてトンネル電極を修飾することにより、DNAがナノポアを通過するときの塩基識別精度を向上させることを目指している。ナノポアとしては、Graphen NanoporeとMetal Nanoporeの2種類について研究を進めている。

化学的認識に基づく高速ナノポアシーケンシング (Arizona State Univ., Bharath R. Takulapalli)

ナノポアシーケンシングでは、塩基識別精度を向上させるために、一般にDNAのポア通過速度を遅くする試みがなされている。本グラントでは、各4種類の塩基の化学的性質に基づいて高速かつ精度よく塩基配列を読み取る技術とシーケンシングの開発を目指す。なお、具体的な原理については開示されていないが、1秒間に10万塩基解読できる技術となると記載されているので、魅力を感じる。