2010年9月27日月曜日

9月13日にNHGRIが10研究グループの次世代シーケンシング技術にグラント供与を発表


NHGRIがグラントを供与する10研究グループの次世代シーケンシング技術

 2010年9月13日付で、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が新しい次世代シーケンシング技術開発の研究グラントである“Advanced Sequencing Technology Awards 2010”を供与する「10グループの新技術」を発表した。以下に各技術の概要を紹介する。

マイクロ流体DNAシーケンシング (GnuBio, Inc.)

 GnuBioが開発を進めているMicrofluidic DNA Sequencingについては、GOクラブでも6月11日に紹介した。GnuBioは、今回のグラントで、これまで開発してきた技術をさらに改良する予定である。マイクロ流体技術を用いて、超並列合成によるDNAサンプルの増幅、または1本鎖DNAの検出を可能にするとともに、短いプローブのハイブリに関しては、結合したオリゴとフリーのオリゴを分別できるfluorescence polarizationによりハイブリを検出できる手法を開発する。

超高速Polony Sequencing (Univ. of New Mexico Health Sciences Center)

 Polony Sequencingは、Harvard Medical SchoolのDr. George Church groupが開発した技術である。本技術の欠点はシーケンシングに要する時間が長いことであるが、University of New Mexico Health Sciences Centerの研究チームは、 1週間でヒトゲノムをリシーケンシング(library prep~sequencing)を1000ドル以下で実施できる技術の開発を目指す。

塩基取込みのラベルフリー検出によるMillikanシーケンシング (Caerus Molecular Diagnostics, Inc.)

 DNA合成時に塩基が取り込まれると電荷が上昇することに着目した、全く新しいシーケンシング技術である。Millikan という名称は、電荷測定に基づくシーケンシング技術であるので、Robert Millikanが行った「Millikanの油滴実験-電子の電荷(素電荷・電気素量)を測定するための実験」にちなんで付けられたものと思われる。シーケンシングに供するDNAはビーズに結合されており、DNA合成の伸長に伴う電荷の上昇をDNA長の関数として捉える。一度に百万個以上のビーズアレイを同時検出でき、1分子シーケンシングも可能になる技術らしい。また哺乳類の新規ゲノム配列を1000ドル以下で解読できるようになることを目指している。


タンパクナノポアを用いた1分子シーケンシング技術 (Scripps Research Institute)

 タンパク・ナノポア・シーケンシングの課題である「4塩基識別精度向上」を解決するために、ナノポアタンパクをタンパク工学的に改良して塩基識別能を高める。また、すべてのナノポアシーケンシングにおいて、DNAがナノポアを通過する速度が速すぎて精度の高い塩基配列決定が困難であるという問題があるが、この問題を、Rotaxaneや人工タンパク質リングを用いて通過速度を遅くしたり、またはDNAポリメラーゼを用いて酵素的に通過速度を制御する技術を開発する。

高密度チップを用いた先進シーケンシングシステム (Intelligent Bio-Systems, Inc.)

 Intelligent Bio-Systems, Inc.は、かなり前から、第2世代シーケンシング技術を開発しているベンチャー企業であるが、なかなかシーケンサーを発表できなかった。今回のグラントで、高密度チップを開発して、シーケンシングのスループット向上とコストダウンを図り、シーケンサの開発につなげるものと思われる。


Direct Real-time Single Molecule DNA Sequencing (University of California, San Diego)

 DNAポリメラーゼが塩基伸長時に4塩基の種類ごとに構造変化がわずかに異なることに着目した、全く新しいシーケンシング技術である。構造変化の検出にはForster resonance energy transfer (FRET)技術を用いるが、その検出のために、DNAポリメラーゼを改良して、DNAポリメラーゼ表面にセンサーをengineerすることを目指している。

トンネリング・シグナルに着目した4塩基検出技術 (Arizona State University)

 トンネリング・シグナルを利用した全く新しいシーケンシング技術である。Arizona State Universityのグループは、すでに水素結合ドナーとアクセプターを含む化合物で修飾した一対のトンネリング電極を用いて、4種類の塩基ごとに発生するトンネリング・シグナルが異なる現象を発見している。今回のグラントで、この現象を着目した次世代シーケンサーの開発を目指す。

ナノポア誘起蛍光を利用した1分子シーケンシング (Boston University)

 Boston UniversityのAmit Mellerらが開発を進めている技術で、GOクラブでも本技術の概要を以前に紹介した。本グラントで、本技術をさらに発展させ、シーケンサーの開発につなげる予定である。

高分子ナノポア通過のモデリング技術 (University of Massachusetts)

 ナノポア・シーケンシング技術の共通の問題点である「DNAのナノポア通過速度の制御」や「1本鎖DNAの自己ハイブリ」について、コンピューターモデリング技術などを用いて解決する。すべてのナノポアシーケンシングに共通に使える技術と言えよう。

電子顕微鏡シーケンシング用塩基特異的重金属ラベリング技術 (University of California, Berkeley)

 GOクラブでは、以前に、Halcyon Molecularが透過型電子顕微鏡を用いた1分子DNAシーケンシング法の開発を進めていることを紹介した。University of California, Berkeleyらは、本グラントで、Halcyon Molecularのシーケンシング技術にも利用できる塩基特異的重金属ラベリング技術を開発する。