2010年7月23日金曜日

NobleGen Biosciencesのソリッドステート・ナノポア・シーケンサー、各ポアあたり1秒間で200塩基を読める


NobleGen Biosciencesのソリッドステート・ナノポアシーケンサー-最高速シーケンシング=各DNAあたり200塩基/秒の性能

 ボストン大学のAmit Meller教授らのグループは、ソリッドステート・ナノポア技術により1分子DNAを最高速(各DNAあたり、毎秒200塩基の速度)で読むことに成功したことを、今年5月11日に科学誌Nano Lett.に発表した。なお、Meller教授は、この技術を実用化するために、NobleGen Biosciencesを設立しているので、GOクラブでは、“NobleGen Biosciencesのソリッドステート・ナノポアシーケンサー”と呼ぶことにする。
 シーケンシング原理については後で詳述するが、DNAの各塩基を10塩基のオリゴマーに変換した「10倍の長さの1本鎖DNA」を調製し、2種類の蛍光でラベルしたDNA(2本鎖)をソリッドステート・ナノポアに通し、蛍光を検出して、塩基配列を読み取っている。したがって、GOクラブの次世代シーケンサーの分類では、第3世代に近いシーケンス技術であるが、ソリッドステート・ナノポアを用いていることから、便宜上第4世代に分類する。
 Meller教授は、ソリッドステート・ナノポアシーケンシング技術の開発をかなり前から始めており、DNAがナノポアを通過するときの電流の変化を各塩基単位の精度で検出することがむずかしい上、DNAがナノポアを通過する速度が速すぎることが大きな問題点であると認識したようである。Meller教授は、2001年にLingVitae社(ノルウェーのLYSAKERにあるゲノムベンチャー企業)のCEOであるPreben Lexow氏と日本で会い、LingVitae社の技術を取り入れることになった。これが、DNAの各塩基を10塩基のオリゴマーに変換する技術である。


シーケンシング原理

 NobleGen Biosciencesのソリッドステート・ナノポアシーケンシングの原理は、科学誌Nano Lett.およびMeller教授のホームページで公開されている。以下にその概要をまとめる。
(1) シーケンシング用DNAサンプルの調製: 他のソリッドステート・ナノポアシーケンシングと異なり、元のDNAを直接解読することができない。LingVitae社の生化学的な手法により、1本鎖のDNAの各塩基を5塩基×2=10塩基のオリゴマーに変換する。各オリゴマーは2ビットのバイナリーコードを意味しており、G、A、T、Cに変換することができる。この変換の結果、たとえば、20塩基の1本鎖のDNAであれば、200塩基のオリゴマーに変換される。このような複雑な変換を行う主な理由は、ソリッドステート・ナノポアシーケンシングの読み取り精度を上げるためである。
(2) バイナリーコード変換した1本鎖DNAに対して、2種類の1本鎖(分子ビーコンを付加した長さ5塩基のDNA)をハイブリダイズさせる。この2種類のDNAをそれぞれオリゴ0、オリゴ1とすると、たとえばオリゴ0,0=G、オリゴ0,1=A、オリゴ1,0=T、オリゴ1,1=Cというように、塩基が解読される原理となっている。
(3) このようにして生成した(疑似)2本鎖DNAがソリッドステート・ナノポアを通過する際に、ハイブリダイズした各5塩基の1本鎖DNAが剥がれる。この1本鎖DNAは分子ビーコンが両末端に付加されているので、FRET (Fluorescence Resonance Energy Transfer) により蛍光が発生する。この蛍光を顕微鏡-CCDカメラで検出することにより、塩基配列が読めるという仕組みである。Signal-Noise比が良好なので、この段階でのシーケンシング精度はかなり高いと思われる。
(4) 今回発表されたナノポアは6×6=36のmultiplexであるが、近い将来100×100=10,000個のナノポアの開発を目指している。1ポアあたり1秒間に200塩基読めるので、1個のチップで200万塩基/秒の読み取り速度(=7.2 Gb/hr)である。


NobleGen技術に対するGOクラブの評価

 NobleGen Biosciencesのソリッドステート・ナノポアシーケンシングについては、1秒あたりの読み取り量が大きい以外に、ソリッドステート・ナノポア通過時の読み取り精度は高いことは評価に値する。ただし、シーケンシング用DNAサンプルの調製に手間がかかることについては、実用上コストおよび操作性の点で懸念材料である。また、元のDNA配列の情報が精度よくバイナリーコード変換されるかどうかについても気になるところである。NobleGen Biosciencesの企業規模はまだ小さいので、シーケンサーの登場がいつになるかも不明である。