2014年9月25日木曜日

Illuminaに対抗できる次世代シーケンサー、登場か?

 これまでに膨大な種類の次世代シーケンシング (NGS) 技術が開発され、既に8タイプ(454、Illumina、SOLiD、Helicos、Complete Genomics、Polonator、Ion Torrent、Pacific Biosciences)の次世代シーケンサーが世に送り出された。そのような中で、Illuminaが今年初めに発売したHiSeq X Tenによって、ついに“1000ドルゲノム”は達成され、今もIlluminaの独走状態が続いている。しかし最近、Illuminaの独走を止める可能性がある次世代シーケンサーに関するニュースが出てきたので、今回のGOクラブで紹介したい。


Base4 Innovationと日立ハイテクの共同開発による新シーケンサー

 英国のベンチャー企業“Base4 Innovation Ltd (Base4 Innovation)”が、日立ハイテクと提携して次世代シーケンサーの開発を推進していることは、以前のGOクラブで紹介した。その後、技術開発が進展して、微小液滴シーケンシング(Microdroplet Sequencing)技術を確立し、塩基配列解読に成功したことが今年5月に発表された。最近のニュースからも、この技術とナノポアシーケンシング技術の組み合わせにより、IlluminaのHiSeq X Tenを上回る性能を有するシーケンサーが登場する可能性が示唆されている。これまで発表されている情報から、この新シーケンサーのスペックを以下にまとめる。

 マイクロ流路デバイスを用いた微小液滴シーケンシング技術の原理については、Base4 Innovationのホームページで図を使って開示されている。解析対象となる二本鎖DNA1分子がトラップされた後、そのDNAの3’末端から、ヌクレオチドがPyrophosphateと反応してヌクレオチド-3リン酸(dNTP)が遊離される。このdNTP分子が微小液滴に閉じ込められた後、微小流路に入る。この微小液滴が微小流路を流れる間に、強い蛍光を発するカスケード型化学変化が起こる。この後の工程に関しては明確な説明はないが、以前のGOクラブで紹介した「ナノポアを用いる蛍光検出法」により塩基配列を決定すると想定される。

 Base4 Innovationの新シーケンサーの性能と長所は、ウェブ情報によると以下のとおりである。
(1) 塩基解読速度:1個のナノポアあたり100万塩基/秒であり、他のナノポアシーケンサーと比較すると、少なくとも1000倍の速度である。
(2) 配列決定長は非常に長い。
(3) シーケンシング精度が非常に高い。
(4) 高価なラベリング試薬などが不要であり、単離DNAを直接シーケンシングすることができる。
(5) 修飾塩基も解読できる。

 Illumina HiSeq X Tenシーケンサーの性能は、1個のフローセルあたり300 Gb/日の解読速度であるが、Base4 Innovationの場合、単純に計算すると、1個のナノポアあたり、86.4 Gb/日の解読速度となる。現実の解読速度はこの数値の10%とすると、8.64 Gb/日/ナノポアの速度となる。Base4 Innovationのナノポアシーケンサーの場合、ナノポアを並列で利用できることが公表されているので、35個のナノポアでIllumina HiSeq X Tenシーケンサーに匹敵する性能となる。しかも、原理的には、Base4 InnovationのシーケンサーはIlluminaシーケンサーを上回る塩基配列決定精度が得られる可能性もある。

 日立ハイテクは、第1世代シーケンサーである(多分子)蛍光キャピラリーシーケンサーを開発し、ゲノム時代を先導してきたが、Base4 Innovationの新シーケンサーは、第1世代シーケンサーの進化形である「1分子蛍光マイクロ流路シーケンサー」ともいうべきものである。この新シーケンサーが発売されれば、DNAシーケンサーの歴史に刻まれるものとなろう。

Oxford Nanoporeの新シーケンサー、近々発表

  Oxford Nanoporeが開発したポータブル・ナノポアシーケンサーであるMinIONデバイスは、早期利用プログラムで世界中の500近い研究グループで試験されている。最近その試験結果の一部が公表されているが、シーケンシング精度は60~85%と予想以上に悪い。ただし、リード長は長く、最大で79 kbのリード長も得られている。

 Oxford NanoporeのCTOであるClive Brown氏は、IlluminaのHiSeq X Tenの塩基出力量に匹敵するシーケンシング能力を有する新しいナノポアシーケンサーPromethION」の完成を発表することを最近アナウンスした。MinIONデバイスのナノポア数は512個であるが、新しいナノポアシーケンサーPromethIONのナノポア数は10万個であり、出力量は200 Gb程度と推定される。PromethIONは、シーケンシング精度が悪いので、当面IlluminaのHiSeq X Tenと対抗するものでなく、Pacific BiosciencesのRSシーケンサーと競合するものとなろう。

中国開発の低コスト・新シーケンサー

  IlluminaシーケンサーのビッグユーザーはBGI (旧・Beijing Genomics Institute)などの中国の研究機関である。中国は最新鋭の工業製品が普及した後、低コストタイプの製品を開発し、市場に投入することが得意である。世界初の次世代シーケンサーである454 Life SciencesのPyrosequencerはNGSの新しい時代を切り開き、最近その製造・販売が中止されることが発表された。一方、今年4月に、Chinese Academy of SciencesのBeijing Institute of Genomics (BIG)は Jilin Zixin Pharmaceutical Industrial Co., Ltd の支援を得て、454 Pyrosequencerと類似しているシーケンサーであるBIGIS-4を発表した。BIGIS-4のリード長やシーケンシング精度は、一世代前の454のPyrosequencerに近い。

 このBIGIS-4の機器の価格はIlluminaの同等機種の約3分の1であり、ランニングコストは約5分の1であるという発表がなされている。出力量やシーケンシング精度などが異なるので、単純な比較はできないが、価格・コスト面では、Illuminaシーケンサーと対抗できるものと思える。