2013年9月24日火曜日

携帯電話カメラチップと白色LEDを使って次世代シーケンシングが可能に!

 2013年9月6日付で、米国国立ヒトゲノム研究所が、次世代シーケンシング技術開発の研究グラントである“Advanced Sequencing Technology Awards 2013”を8つの研究チームに供与することを発表した。今回の特色としては、8チーム中5チームがナノポアシーケンサーの開発に関わるものであることが挙げられる。また、画期的な新技術として、携帯電話カメラチップと白色LEDを用いた次世代シーケンサーの開発も選ばれた。今回のGOクラブでは、研究グラントに採択された技術の概要をまとめる。


Accurate, Long Read Length, Whole Human Genome Sequencing Under $100

 表題の研究を進めるのは、Eve Biomedical, Inc.(Eve Biomedical)である。Eve Biomedicalは、創業者がTheofilos Kotseroglou氏で、カリフォルニア州Mountain View市に拠点を置くベンチャー企業である。
  Eve Biomedicalは、DNAのマクロな動きと1塩基精度のナノスケールの動力学を関連付ける変換器を用いて、携帯電話のカメラチップ上で、蛍光を使わずに、一般の白色LEDを用いて光学的にDNAの塩基配列を決定する技術の開発を進めている。これまでに、1,600塩基のリード長を達成し、100塩基のセクションで配列アライメントを正確に行えることが実証されている。DNAのマクロな動きといっても、一般にはブラウン運動のようなランダムな動きをしているように思えるので、どのような現象に着目して規則性や塩基特異性を検知するのか、現時点では不明である。
 本グラントにおけるフェーズⅠ研究では、「配列決定精度」と「リード長」と「処理量」の3つの指標で性能を向上させるために、主にイメージプロセシングとバイオインフォマティクスなどのソフトウェアツールの開発を行う。そして、大腸菌などの細菌の全ゲノムシーケンシングで技術の性能の実証を行う予定である。フェーズⅠ研究の後は、低価格のベンチトップ機器の開発を進めるが、一般に市販されている携帯電話のカメラチップを用いることにより、機器は1万ドル以下になり、またヒト全ゲノムシーケンシングのコストも100ドル以下にすることを目指す。

Plasmonic Nanopores for Trapping, Controlled Motion and Sequencing of DNA

  Illinois大学Urbana-ChampaignのAksimentiev博士らのグループとオランダのDelft工科大学のDekker博士らのグループが、プラズモン・ナノポアを用いる次世代シーケンシング技術の開発を共同で進める。プラズモン・ナノポアとは、内径10 nm程度のソリッドステート・ナノポアとプラズモン・ボータイ・ナノアンテナを組み合わせた新規なデバイスを指す。本研究では、プラズモニクス(金属中の電磁界と自由電子の間の相互作用に関する研究)を、DNAの補足、DNAの移動速度の制御および塩基配列の解読に利用する点で独創性がある。特に、ナノポア中でのDNAの捕捉・移動を制御するために、プラズモンピンセットを利用する。ナノポア部分にnmサイズのスポットとして非常に高い強度の光を集中するために、表面増強ラマン分光法を通してDNA配列を同定することを試みる。

Nanopore Sequencing of DNA with MspA

 Washington大学のGundlach博士のグループが、Alabama大学のNiederweis博士のグループと共同で、MspAタンパクナノポアを用いたシーケンシング技術の開発を進める。本技術については、Nature Biotechnologyの2012年4月号に、シーケンシングが行えることを実証した論文が発表されており、以前のGOクラブでも紹介した。本技術においては、連続4塩基の電流値を検知し、その電流値の変化に基づいて、塩基配列を推定するという手法を取っているために、配列決定精度が良くない。本研究では、塩基配列同定アルゴリズムの改良ならびナノポアシーケンシング精度の向上のために、MspAタンパク質を遺伝子工学的手法により改良することに注力する。また、メチル化塩基を含めて、長いリード長の配列を読めることを実証する。

An Integrated System for Single Molecule Electronic Sequencing by Synthesis

  本研究では、昨年公表されたNano-SBS(Nanopore-based Sequencing By Synthesis)法をさらに発展させ、ナノポアシーケンサーを開発することを目的としている。Nano-SBS法は、Columbia大学のJu博士らが、National Institute of Standards and TechnologyのKasianowicz博士らと共同で開発した技術であり、技術内容については、以前のGOクラブでも紹介した。シーケンサーの開発はベンチャー企業Genia, Inc.が担当しており、実現性が高い技術であると思う。現在、チップ内のナノポア数は260個であるが、本研究では125,000個以上のナノポア数まで拡張し、ナノポアを用いた1分子リアルタイムシーケンシング技術の確立を目指す。

Modeling Macromolecular Transport Through Protein and Solid-State Nanopores

  ナノポアシーケンシングの実現における大きな課題の一つに、DNAの通過速度を遅くすることが挙げられる。Massachusetts大学AmherstのMuthukumar博士らのグループは、高分子物理学、統計力学理論、コンピューターシミュレーション、およびコンピューターを用いた非線形方程式の解法を組み合わせることにより、DNA移動の現象を解明し、DNAの通過速度を制御することを目指す。

Towards Viable Nanopore Sequencing by Slowing DNA Translocation

  Electronic Biosciences, Inc.は、本研究で、上述のMuthukumar博士らのグループと同じく、DNAがナノポアを通過する速度を制御することにより、塩基配列を精度よく解読することを目標としている。研究のタイトルに“Viable”という形容詞が付いているように、現実的に利用できる安価で高速なベンチトップ型シーケンサーの市販を目指している。

Nanofluidic Platforms for High Resolution Mapping of Genomic DNA

  North Carolina大学Chapel HillのRamsey博士らのグループは、マイクロDNA流路デバイスを用いて長鎖DNAの制限酵素地図を高速で作成する技術を確立することを目標としている。この研究領域では、BioNano Genomics, Inc.(以前、BioNanomatrixという社名であった)やOpGen, Inc.は、1分子DNAを直接観察することにより、塩基配列でなく、DNAの構造的特徴を見出す技術や機器の開発を行っている。Ramsey博士らは、BioNano Genomics, Inc.の技術とOpGen, Inc.の技術を合わせたタイプの技術の開発を行う。

Haplotype Resolved Sequencing Technology

  ハプロイドゲノムの配列を決定するためには、「超ロングリードのシーケンシング法」または「ハプロイドゲノム由来の長鎖DNAライブラリーを作製する手法」のいずれかのアプローチを取る方法が考えられる。New Mexico大学Health Sciences CenterのEdwards博士のグループは、後者のアプローチで、新しいDNAライブラリーの作製法に関する開発を行う。