2011年12月25日日曜日

GnuBIOシーケンサーβ版、2012年第2四半期にリリースか

 GnuBIO2011年12月14日付で「来年第2四半期の上市を目指して、Microfluidics-based sequencer β版の組み立てを開始した。」と発表した。このGnuBIO のシーケンサーについては、GOクラブで、2010年06月11日号2011年04月26日号の2回に渡って紹介したが、非常に期待できるシーケンサーである。GnuBIO は、シーケンシング技術とシーケンサーの詳細を公表していないが、今回のGOクラブでは、「これまでのニュースリリースの内容」と「米国出願特許20110267457 (2011年6月29日公開)」をもとに、GnuBIO の技術を推定してみたい。

シーケンシング原理-初めて実用化されるSBH法

 β版シーケンサーでは、原則6-mer の蛍光ラベルDNAプローブを配列決定すべき1本鎖のTarget DNAにハイブリダイズさせた後、(Taq) Polymerase によるDNA合成過程で遊離するDNAプローブ由来の蛍光を検出して、塩基配列を解読するというSBH (Sequencing-By-Hybridization) 法が用いられている。その原理を下図を参照しながら説明する。

(1) Microfluidics (マイクロ流路) 技術を用いて、第1の微小滴 (1st Microdroplet) に1種類のプローブ (oligoDNA probe) とそのプローブの配列を識別するための Identification Element を取り込ませる。

(2) プローブは原則6-mer であるが、6-mer プローブの場合、合計4,096種類存在する。プローブは、その5'端には蛍光色素S が付加され、3'端にはクエンチャーQ(Quencher) が付加されており、Real-Time PCR などで用いられる“Taqman probe”と同様の構造を有する。クエンチャーがあるために通常蛍光を発しない。SBH法の欠点の一つとしては、AAAAAAAAA や GTGTGTGTG や GACGACGAC などのホモポリマーの配列決定が困難なことが挙げられる。この欠点について、最大9-mer  までのホモポリマーや2種類・3種類の塩基が交互に並べられたホモポリマーのプローブを加えることにより、9塩基連続のホモポリマー配列までは解読できるようになったらしい。

(3) 第2の微小滴 (2nd Microdroplet) には Target DNA が含まれている。Target DNA はPCR法により調製されるが、その長さは通常数百bp~数kbである。

(4) 第1と第2の微小滴を融合させると、プローブIdentification Element および Target DNA が混じり合う。Target DNA の配列にプローブと完全に相補的な配列が存在すると、プローブはTarget DNAにハイブリダイズする。

(5) 次に、DNA polymerase によりDNA合成を行うが、米国出願特許20110267457には、DNA polymerase は第1、第2または第3の微小滴に含まれるとしか記載されていないので明確ではないが、PicoInjection によりDNA polymerase が融合微小滴に注入され、DNA合成が始まるようである。“Taqman probe” 型プローブを用いているので、Taq Polymerase を用いると推定される。Taq Polymerase がハイブリダイズしたプローブまで到達すると、このプローブを引き剥がしながら分解する。その結果、蛍光色素 (S=Signal) が遊離し、蛍光が発せられる。Real-Time PCR と同様に、蛍光強度はハイブリダイズしたプローブの数に比例するはずなので、Target DNA 中にハイブリダイズしたプローブの個数は推定できると思われる。

(6) 蛍光を発するだけでは、プローブの配列はわからない。この配列を同定するために、Identification Element を用いている。Identification Element の詳細は開示されていないが、上記特許によると、Luminex社が開発したLuminex PlexMAP Microsphere (カラーコード微小ビーズ) などを利用しているようである。このLuminex の微小ビーズは2種類以上の蛍光色素の強度の組み合わせにより500種類以上のものが準備されている。したがって、第1の微小滴に各プローブごとに異なるバーコード微小ビーズが含まれていることが想定される。

(7) 配列決定の原理は、蛍光色素Qの検出によりプローブの配列の存在を同定し、その配列は Identification Element 由来の蛍光を読み取ることにより同定できる。この同定された6塩基配列を参照配列にマッピングしたり、アセンブルすることにより、Target DNAの配列を解読する。

GnuBIOシーケンサーβ版の性能

 6塩基のプローブを用いたSBH法では高精度なシーケンシングを行えないと思えるが、GnuBIOは、「シーケンシング・エラーを減少させるために、Each read will have both a "positive probe signal" and four "negative probe signals." という工夫を加えている。」と発表している。したがって、シーケンシング原理は上述のものより複雑であろう。各リードの配列決定精度は99.97%と極めて高く、また全リードの95%が600 bpのリード長を達成している。β版のリリース時点でのリード長は約1,000 bpを予定している。
 サンプル調製からデータ解析までの時間はわずか2時間で驚くほど短い。シーケンサーの価格も50,000ドルと安価である(多くのシーケンサーは日本に輸入されると価格が約2倍になってしまうが)。

想定される利点と欠点

 利点としては、(1) 精度がよい、(2) リード長が長い、(3) 操作が簡便で、シーケンシング時間が短いことが挙げられる。欠点については、ヒト・哺乳類のゲノム配列は、2塩基のリピートも多く、またCAGリピートやGGCリピートなどの3塩基リピートも存在するので、リピート配列の決定精度が悪いことが挙げられる。また、6塩基をベースとするSBH法という原理から、新規ゲノム配列決定には向かない可能性が考えられる。

用途と他機器との比較

 上記の利点と欠点を考慮すると、GnuBio シーケンサーはAmplicon Sequencing やエキソームシーケンシングなどのResequencing に使うデスクトップシーケンサーという位置づけになるであろう。この用途では、Illumina MiSeq シーケンサーやIon Torrent PGM シーケンサーが競合機種となる。MiSeq シーケンサーやPGM シーケンサーは新規ゲノム配列決定を含めて多様な用途で使える点でGnuBio シーケンサーより優れていると思えるが、診断用途ではGnuBio シーケンサーの方が優位性があるかもしれない。