2010年11月9日火曜日

Life Technologies社が大幅に改良した新SOLiDシーケンサーを発売


 Life Technologies (Applied Biosystems) 社は、2011年11月1日付で、新しいSOLiD シーケンサー5500xl SOLiD と5500 SOLiDの発売を発表した。Life Technologies社は、すでにSOLiD 4のアップグレード機種としてSOLiD 4hqの発売予定をアナウンスしており、またSOLiD 4の廉価版であるSOLiD PI の発売を発表していた。今回の発表により、SOLiD 4hq は 5500xl SOLiDに、そしてSOLiD PI はSOLiD 5500 SOLiDに置き換わることがわかった。アップグレード機種というより、機器は一新されており、実質新機種である。Illumina社はすでに新機種HiSeq2000を発売・出荷しており、性能面でもSOLiDを一歩リードしていた。しかし、5500xl と 5500 の発売により、逆にSOLiDシーケンサーがIllumina HiSeqを抜き返した感じがする。以下に、5500xl と 5500 の詳細と Illumina HiSeq シーケンサーとの比較について報告する。


5500xl SOLiDシーケンサーの概要

 5500xl SOLiDのシーケンサーは、現行機種であるSOLiD4と比べて、下記に示す「ハードウェアの一新」、「スライドグラスでなく、フローセルの使用」、そして「配列決定精度が大幅向上させるExact Call Chemistryモジュールの導入」の3点で大きく改良された。
(1) シーケンサー・ハードウェアは、日立ハイテクノロジーズ社との共同開発により一新されたが、反応制御・データ処理用コンピューターは内蔵されており、リアルタイムでデータ処理も行える。
(2) シーケンシング反応は、SOLiD4ではスライドグラスを用いていたが、5500xl では新設計のフローセルを用いることになった。1個のフローセルには6個のチャンネルがあり、別々に制御できるので、各チャンネルごとにアプリケーションを変えられるので、非常に柔軟性が出た。
(3) Exact Call Chemistryモジュールの仕組みについては、後述するが、追加のシーケンス反応を行うことにより、配列決定精度が大幅向上し、かつ配列が直接塩基配列(base space)として出力できるようになった。なお、これまでのSOLiDシーケンサーでは、配列は0、1、2、3というColor spaceで出力され、塩基配列(base space)として出力できなかった。
 5500xl SOLiDの詳しいスペックについては、5500xl SOLiDとIllumina HiSeq 2000の比較のところをご覧いただきたい。その他、5500xlのランタイムはSOLiD4と比べて概ね2分の1に短縮された。

配列決定精度を大きく向上させるSOLiDの新機能“Exact Call Chemistryモジュール”

 Exact Call Chemistryの概要を以下にまとめるが、詳細な仕組みについては、Life Technologies社が発表している資料を参照していただきたい。
 SOLiDシーケンサーはオリゴDNAのライゲーション反応を利用してシーケンシングを行うが、従来は合計5セットのプライマーを用いて反応を行っていた。Exact Call Chemistryでは、もう1セットのプライマーを追加して反応を行い、いわゆる2度読みを行うことによりエラーの校正を行う。Exact Call Chemistryで用いているエラー校正の原理は、Error Correcting Codesと呼ばれ、デジタル通信やデータ保管でよく用いられている方法である。Life Technologies社によると、これまで発表されている次世代シーケンサーの配列決定に対しては、このECCによるエラー校正法は、唯一SOLiDシーケンサーにしか適用できないそうである。

5500xl SOLiDとIllumina HiSeq 2000の比較

 各メーカーが発表している5500xl SOLiDとIllumina HiSeq 2000のスペックを下表に示す。両者、概ね同レベルのスペックであるが、HiSeq 2000は5500xl SOLiDよりも最大リード長が長い。一方、5500xl SOLiDのリード精度はHiSeq 2000と比べると優れている。またMultiplexing(バーコード)に関しては、5500xl SOLiDは96種類のバーコードが使えるが、HiSeq 2000は12種類である。なお、SOLiDシーケンサーもIlluminaシーケンサーも、GC含量によりシーケンシング・バイアスが観察されていたが、5500シリーズのSOLiDでは、GC含量によるシーケンシング・バイアスはほとんど解消されている
項目\シーケンサー
5500xl SOLiD
Illumina HiSeq 2000
1フローセルあたり出力量/1ランあたり出力量(日数)
2×60 bpのとき、90 Gb/180 Gb (7日)2×100 bpのとき、100 Gb/200 Gb (8日)
同時使用フローセル数
2
2
1フローセルあたり利用可能チャンネル数
6個
最大8個 (1個はコントールとして推奨されているので、通常は7個利用可能)
1フローセルあたりリード数(ペアエンド時のリード数)
7億リード(14億リード)
5億リード(10億リード)
1リード長最大75 bp最大100 bp(今後150 bpも可能になる予定)
1リードあたり配列決定精度99.99%(98%のリードがQV45以上、
ただしExact Call Chemistry利用時)
50 bpリード時: 90%のリードが、
QV30(精度99.9%)以上
100 bpリード時: 85%のリードが、
QV30(精度99.9%)以上
利用可能バーコード数9612


廉価版シーケンサー5500 SOLiDとIllumina HiSeq 1000の比較

 Life Technologies社は、今年3月にSOLiD4の廉価版機種としてSOLiD PIを発表しているが、今回の発表により、SOLiD PIは5500 SOLiDとして発売されることになった。5500と5500xlの間の唯一の違いは、5500はフローセルが1個しか使用できない点であり、出力量はランあたり半減する。なお、5500 SOLiD購入者は5500xl にアップグレードすることも可能である。
 一方、Illumina社もごく最近HiSeq 2000機種のフローセル1個バージョンとなるHiSeq 1000(HiSeq 2000へのアップグレード可能)の開発を発表した。HiSeq 1000のリリースは来春になるらしい。
 SOLiD PIの予価は$230,000であったが、5500 SOLiD は出力量が上がったためか、価格は1.5倍以上になるようであるが、それでも現時点では5500 SOLiDの標準価格はHiSeq 1000より安価であるので、お手頃な機種と言えよう。


5500シリーズ SOLiDに関する総評

 Illumina HiSeq 2000や5500xl SOLiDが発売され、次世代シーケンシングのコストも大幅にダウンし、またPacific Biosciences社の第3世代シーケンサー“PACBIO RS”も今年中に正式に発売される予定なので、色々な情報に目移りする。しかしながら、新SOLiDのECCモジュールを利用したヒトゲノムのリシーケンシングの結果を見ると、最も大切な研究成果に関心が行く。特にガン組織の変異は一部の細胞で起こっていることが多いので、いわゆるrare SNPsを高精度に同定する必要がある。この観点から、次世代シーケンサーの比較については、価格や出力量やリード長だけでなく、個々の用途に対して期待される実験成果そのものも評価指標として重要になってくるであろう。いくら安くても、満足できる結果・成果が得られないのであれば、投入したお金と時間が無駄になってしまう。
 今回発表された5500シリーズのSOLiDの開発・製造に関しては、Applied BioSystemsのキャピラリーシーケンサーの安定した性能を実現した日立ハイテクノロジーズ社が参画したことは非常に心強い。さらに、5500シリーズのSOLiDは、配列決定の精度に関して、他機種を大きく引き離す性能を実現したことから、現時点ではIllumina HiSeqシリーズを追い抜いたと思われる。