2015年1月23日金曜日

バイオデジタル革命を先導するlllumina

 バイオデジタル革命を牽引する「核」は、やはり次世代シーケンシング(NGS)技術であろう。現在、このNGS技術を利用してビジネスをリードするのはIllumina, Inc. (Illumina)であり、同社は昨年MIT Technology Reviewが発表した50 Smartest companiesの第1位に選ばれた。今回のGOクラブでは、この話題とIlluminaによる恒例の年初の新製品発表を合わせて、Illuminaのビジネスについてレポートする。


Illumina, Top of 50 Smartest companies - 2014

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)の機関誌であるMIT Technology Reviewは、毎年革新的な技術を用いて事業を推進している企業を50社選び、発表している。昨年(2014年)は、「50 Smartest Companies」(世界で最も革新的な50社)をランキング形式で発表しているが、Illuminaが第1位に選ばれた。Illuminaが第1位に選ばれた理由は、昨年HiSeq X Tenの発売により1000ドルゲノムを達成したことが大きいと思われる。全産業の中で、次世代シーケンサーの製造販売企業が技術革新のトップになったことは、バイオデジタル革命の中核的位置を示す「ゲノム情報」が、世の中に及ぼす影響が大きいと評価されたことによると思われる。ちなみに、2~5位の企業はTesla Motors、Google、Samsung、Salesforce.com であった。

 「50 Smartest Companies」のトップ50に入ったバイオ関連企業・組織は、Illumina以外に、8位のThird Rock Ventures(医療・製薬専門ベンチャーキャピタル)、20位のSecond Sight(視力支援デバイス)、33位のMonsanto(作物育種)37位のMedtronic(医療・手術機器)39位のGenomics England(イギリスの10万人ゲノム推進組織)、42位のKaiima Bio-Agritech(作物育種)49位のArcadia Biosciences(作物育種)が選ばれており、合計8組織であった。

 さらに、MIT Technology Reviewでは、2010年から毎年革新的な技術を活用した事業を進めるトップ50企業「50 most desruptive companies」を選出している。過去の発表では、毎年NGS技術関連企業が3組織ずつ(2014年は2組織)が選出されている(具体的な社名・組織名は下表を参照)。このように、ここ5年間はNGS技術は革新性があり、大きな破壊的イノベーションを起こすであろうと評価され、そのイノベーションを先導している企業はIlluminaといえる。

 ◆MIT Technology Reviewが「50 most desruptive companies」に選出したバイオ関連企業・組織(2010~2013年)
 2010年 2011年 2012年 2013年
 Illumina
 Complete Genomics
 Pacific Biosciences
 Amyris
 Joule Biotechnologies
 Synthetic Genomics
 Nanosphere
 Fluidigm
 Medtronic
 AthenaHealth
 Alnynam
 Bind Biosciences
 Fate Therapeutics
 GlaxoSmithKline
 Life Technologies
 Complete Genomics
 Pacific Biosciences
 Amyris
 Novomer
 Synthetic Genomics
 Claros Diagnostics
 Novartis
 Roche
 Geron
 Cellular Dynamics International
 BIND Biosciences
 Life Technologies
 Complete Genomics
 Foundation Medicine
 Athenahealth
 Integrated Diagnostics
 PatientsLikeMe
 Healthpoint Services 
 Roche
 Cellular Dynamics International
 Organovo
 Illumina
 BGI
 Foundation Medicine
 Diagnostics For All (NPO) 
 Novartis 
 uniQure 

がん治療領域でのバイオデジタル革命

 がん患者のがん組織のゲノムシーケンシング解析が進み、患者ごとにがんの原因変異が異なることがわかってきた。このようなゲノム診断技術の進歩から、海外の大手製薬企業は、がん治療をがんゲノム診断とセットで行うことを目指す流れが出てきた。昨年(2014年)8月21日には、AstraZeneca、Sanofi、Janssenの3社がそれぞれ、がんゲノム診断でIlluminaと提携することを発表した。つい最近、がん治療薬ビジネスで世界トップであるRoche (F. Hoffmann-La Roche, Ltd.) は、がんゲノム診断の世界トップである“Foundation Medicine, Inc.”の株式を、公開買い付けや新株引き受けなどにより、完全希釈化ベースで最大56.3%を取得する方向であり、その投資総額は1000億円以上となることを発表した。このように、バイオデジタル革命は、まずはがん治療を初めとして、種々の疾病の治療領域に広がっていくであろう。

Illuminaの4種類の新製品発表

 Illuminaは毎年1月初めに新製品の発表を行っているが、今年は1月12日付けのプレスリリースで、4機種の次世代シーケンサーの新製品(HiSeq X five、HiSeq 3000、HiSeq 4000、NextSeq 550)を発表した。HiSeq X fiveは昨年発売されたHiSeq X Tenの小規模版で、5台のHiSeq Xがセットになったものなので、新機種とは言えない。また、NestSeq 550は、昨年発売されたNextSeq 500にアレイスキャナー機能が付加されたものであり、これも新機種とは言えない。HiSeq 3000/4000は、HiSeq 2500の後継機種であり、HiSeq Xと同じく、整列化マイクロウェルのフローセルを用いてシーケンシングができるようになった点で、新機種と言えるであろう。HiSeq 3000とHiSeq 4000の違いは、一度に処理できるフローセルの数が異なるだけで、実質同列の機種である。HiSeq X、HiSeq 4000、HiSeq 2500のスペックを比較した表を下表に示す。

  HiSeq X HiSeq 4000 HiSeq 2500
 フローセルの形状 整列化ウェルを持つセル 整列化ウェルを持つセル ウェルなしセル
 リード数/1 flow cell 26.5~30億リード 26億リード 20億リード
 配列出力/1 flow cell 800~900 Gb (150 bp x 2) 750 Gb (150 bp x 2) 500 Gb (125 bp x 2)
 日数/ラン < 3日 3.5日 6日
 精度 (Quality; Q30) 75% at 150 bp 75% at 150 bp 75% at 250 bp
 解析数:Human whole genome/2 cells 18 12 10
 解析数:Human exome/2 cells  180 150
 解析数:Human transcriptome/2 cells  100 80
 新製品が出て、Gbあたりのコストは下がってはいるが、実質シーケンシングにかかるコストの減少は鈍化している。1000ドルゲノムは達成したものの、まだ個人ゲノムを普及させるには、コストが高すぎると思う。ちなみに、HiSeq X fiveを使用した場合の個人ゲノム解析コストは約1500ドルと発表されている。Illuminaの独走が続く限り、シーケンシング・コストはなかなか下がらないと思われる。