バイオデジタル革命を牽引する「核」は、やはり次世代シーケンシング(NGS)技術であろう。現在、このNGS技術を利用してビジネスをリードするのはIllumina, Inc. (Illumina)であり、同社は昨年MIT Technology Reviewが発表した50 Smartest companiesの第1位に選ばれた。今回のGOクラブでは、この話題とIlluminaによる恒例の年初の新製品発表を合わせて、Illuminaのビジネスについてレポートする。
Illumina, Top of 50 Smartest companies - 2014
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の機関誌であるMIT Technology Reviewは、毎年革新的な技術を用いて事業を推進している企業を50社選び、発表している。昨年(2014年)は、「50 Smartest Companies」(世界で最も革新的な50社)をランキング形式で発表しているが、Illuminaが第1位に選ばれた。Illuminaが第1位に選ばれた理由は、昨年HiSeq X Tenの発売により1000ドルゲノムを達成したことが大きいと思われる。全産業の中で、次世代シーケンサーの製造販売企業が技術革新のトップになったことは、バイオデジタル革命の中核的位置を示す「ゲノム情報」が、世の中に及ぼす影響が大きいと評価されたことによると思われる。ちなみに、2~5位の企業はTesla Motors、Google、Samsung、Salesforce.com であった。
「50 Smartest Companies」のトップ50に入ったバイオ関連企業・組織は、Illumina以外に、8位のThird Rock Ventures(医療・製薬専門ベンチャーキャピタル)、20位のSecond Sight(視力支援デバイス)、33位のMonsanto(作物育種)37位のMedtronic(医療・手術機器)39位のGenomics England(イギリスの10万人ゲノム推進組織)、42位のKaiima Bio-Agritech(作物育種)49位のArcadia Biosciences(作物育種)が選ばれており、合計8組織であった。
さらに、MIT Technology Reviewでは、2010年から毎年革新的な技術を活用した事業を進めるトップ50企業「50 most desruptive companies」を選出している。過去の発表では、毎年NGS技術関連企業が3組織ずつ(2014年は2組織)が選出されている(具体的な社名・組織名は下表を参照)。このように、ここ5年間はNGS技術は革新性があり、大きな破壊的イノベーションを起こすであろうと評価され、そのイノベーションを先導している企業はIlluminaといえる。
◆MIT Technology Reviewが「50 most desruptive companies」に選出したバイオ関連企業・組織(2010~2013年)
2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 |
Illumina
Complete Genomics
Pacific Biosciences
Amyris
Joule Biotechnologies
Synthetic Genomics
Nanosphere
Fluidigm
Medtronic
AthenaHealth
Alnynam
Bind Biosciences
Fate Therapeutics
GlaxoSmithKline
| Life Technologies
Complete Genomics
Pacific Biosciences
Amyris
Novomer
Synthetic Genomics
Claros Diagnostics
Novartis
Roche
Geron
Cellular Dynamics International
BIND Biosciences
|
Life Technologies
Complete Genomics
Foundation Medicine
Athenahealth
Integrated Diagnostics
PatientsLikeMe
Healthpoint Services
Roche
Cellular Dynamics International
Organovo
| Illumina
BGI
Foundation Medicine
Diagnostics For All (NPO)
Novartis
uniQure
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がん治療領域でのバイオデジタル革命
がん患者のがん組織のゲノムシーケンシング解析が進み、患者ごとにがんの原因変異が異なることがわかってきた。このようなゲノム診断技術の進歩から、海外の大手製薬企業は、がん治療をがんゲノム診断とセットで行うことを目指す流れが出てきた。昨年(2014年)8月21日には、AstraZeneca、Sanofi、Janssenの3社がそれぞれ、がんゲノム診断でIlluminaと提携することを発表した。つい最近、がん治療薬ビジネスで世界トップであるRoche (F. Hoffmann-La Roche, Ltd.) は、がんゲノム診断の世界トップである“Foundation Medicine, Inc.”の株式を、公開買い付けや新株引き受けなどにより、完全希釈化ベースで最大56.3%を取得する方向であり、その投資総額は1000億円以上となることを発表した。このように、バイオデジタル革命は、まずはがん治療を初めとして、種々の疾病の治療領域に広がっていくであろう。 |
Illuminaの4種類の新製品発表
Illuminaは毎年1月初めに新製品の発表を行っているが、今年は1月12日付けのプレスリリースで、4機種の次世代シーケンサーの新製品(HiSeq X five、HiSeq 3000、HiSeq 4000、NextSeq 550)を発表した。HiSeq X fiveは昨年発売されたHiSeq X Tenの小規模版で、5台のHiSeq Xがセットになったものなので、新機種とは言えない。また、NestSeq 550は、昨年発売されたNextSeq 500にアレイスキャナー機能が付加されたものであり、これも新機種とは言えない。HiSeq 3000/4000は、HiSeq 2500の後継機種であり、HiSeq Xと同じく、整列化マイクロウェルのフローセルを用いてシーケンシングができるようになった点で、新機種と言えるであろう。HiSeq 3000とHiSeq 4000の違いは、一度に処理できるフローセルの数が異なるだけで、実質同列の機種である。HiSeq X、HiSeq 4000、HiSeq 2500のスペックを比較した表を下表に示す。
| HiSeq X | HiSeq 4000 | HiSeq 2500 |
フローセルの形状 | 整列化ウェルを持つセル | 整列化ウェルを持つセル | ウェルなしセル |
リード数/1 flow cell | 26.5~30億リード | 26億リード | 20億リード |
配列出力/1 flow cell | 800~900 Gb (150 bp x 2) | 750 Gb (150 bp x 2) | 500 Gb (125 bp x 2) |
日数/ラン | < 3日 | 3.5日 | 6日 |
精度 (Quality; Q30) | 75% at 150 bp | 75% at 150 bp | 75% at 250 bp |
解析数:Human whole genome/2 cells | 18 | 12 | 10 |
解析数:Human exome/2 cells | | 180 | 150 |
解析数:Human transcriptome/2 cells | | 100 | 80 |
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