2014年2月25日火曜日

AGBT2014ミーティングでの話題:Oxford Nanopore、PacBioおよびGenapSys

 毎年次世代シーケンシング(NGS)に関する最新の技術が発表される“Advances in Genome Biology and Technology Meeting (AGBT2014)”が、今年は2月12~15日の4日間に渡って、例年と同じくフロリダ州Marco Islandで開催された。AGBT2014では、Oxford NanoporeのMinIONシーケンサーを用いて大腸菌などの2種類の細菌ゲノムのシーケンシング結果が発表されたことが大きなトピックスであった。今回のGOクラブでは、Oxford Nanopore、PacBio、そしてGenapSysに関する話題を提供したい。


Oxford NanoporeがMinIONシステムのデータを公開!

  Oxford Nanoporeが、2年前のAGBTでMinIONシステムに関する衝撃的な発表を行ってから、しばらくの間、MinIONによる実データは明らかにされなかったが、やっと今回のAGBTで、MIT・Broad InstituteのDavid Jaffe博士によって、E. coliScardoviaの2種類の細菌ゲノムの配列決定の結果が紹介された。

 今回の発表のシーケンシングでは、ナノポア・シーケンシングの前にライブラリー調製が必要であるが、その詳細は明らかにされなかったようだ。以前のGOクラブで、ライブラリー作製法の1つを紹介したが、その方法を用いているのかもしれない。リード長は、E. coliでは平均5.4 kbで、Scardoviaでは平均4.9 kbである。以前、100 kbくらいまで読めるという発表からすると、リード長が短い印象を受けるが、リード長は調製したDNAの長さに依存するらしく、より長いロングリードは可能なようである。以前の発表では、3塩基ずつ読み取るという原理であったが、今回の発表では6塩基ずつ読み取るアルゴリズムに変わり、6塩基の配列が1塩基ずつずらして(5塩基の重複を含んで)出力されるようである。
  
 シーケンシングエラーの目標値は1%であったが、今回の発表ではエラー率の公表はなく、ランダムエラーでなく、特定のエラー(Systematic errors)が発生することが明らかにされた。ランダムエラーであれば、配列決定量を増やせば解決できるが、特定のエラーの場合には解決は簡単でないかもしれない。David JaffeはBase calling ソフトウェアの改良とか、複数(種)のナノポアリードの併用などにより解決できるかもしれないという旨の発表を行ったらしい。したがって、このエラーはそれほど深刻なものでないかもしれない。細菌ゲノムの新規アセンブリーについては、MinIONシステムのリードとIlluminaシーケンサーのショートリードとのハイブリッドアセンブリーにより可能になることが明らかにされた。
 以上のように、ナノポアシーケンサーは初めて実用に耐えられることが明確になったが、2年前に発表されたスペックより劣っており、後述するPacific Bioscieces (PacBio) には後塵を拝していると言える。ただし、デバイスも安価であり、将来性があることには相違ない。

PacBio RSIIでヒト全ゲノム配列を決定!

  PacBioは、最新のP5-C3シーケシングケミストリー(1個のSMRTセルあたり200 Mbの出力)を用いて、54倍の冗長度でヒト全ゲノムシーケンシングを行ったことを発表した。具体的には、ヒトハプロイド細胞株CHM1htertのゲノムDNAをもとに、合計162 Gbの配列出力を得た後、Googleの協力のもとGoogle Cloud Platformを用いて、合計405,000 CPU・hours(1日間)で行った。得られたゲノム配列は3.25 Gbであり、N50コンティグ長と最長のコンティグ長はそれぞれ4.38 Mbと44 Mbであった。他のグループの最新データは、IlluminaシーケンシングとBACクローンとのハイブリッドアセンブリーで、アセンブリーに得られたゲノム配列長とN50コンティグ長はそれぞれ2.85 Gb、144 kbであるので、PacBioの性能が優れていることが実証された。

GenapSysの新型ポータブル半導体シーケンサーが発表される!

  4年前のAGBTでのIon Torrentによる衝撃的な発表を知り、バイオとITと半導体の融合により新しい世界が切り拓かれることを実感して、GOクラブの企画を始めた。AGBTでは毎年のように、巨人Illuminaの打倒を目指す新しいNGS技術の発表があるが、新しい挑戦者はGenapSysであろう。

 GenapSysは、AGBT2014で、「新シーケンサーGENIUS110を開発でき、今年2月14日からアーリーアクセスプログラムの受付を開始すること」を発表した。このプログラムの受付は5月31日で締め切られる。GenapSysの技術は公表されていないが、GOクラブではGenapSys関連の出願特許から技術を推測し、紹介した。今回発表されたシーケンサーは小型で、面積はiPadほどの大きさである。DNAやライブラリーの調製も自動化する予定であるが、今回発表された機器は、予め調製したライブラリーを半導体チップ内に入れてシーケンシングするものである。方法はPyrosequencingを用いているが、Ion TorrentシーケンサーのようにpH変化を測るものではない。おそらくDNAが合成されるにつれてマイナス電荷が増えていくので、その荷電変化を電気的に測定するものと予想する。半導体シーケンシングチップは3種類用意されると発表された。各チップの出力サイズは、1 Gb(ターゲット・シーケンシング用)、20 Gb(エキソーム・シーケンシング用)、100 Gb(全ゲノムシーケンシング用)である。

 発表内容からは衝撃性が感じられるものの、シーケンシング原理やスペックなどは公開されていないので、現時点でのGenapSysの評価はむずかしい。しかしながら、シーケンサーはすでに完成しており、2月14日からアーリーアクセスプログラムを世界中から受け付けることを発表したことから、「本物」ではないかと思われる。