1,000ドルゲノムを達成する新シーケンサー“HiSeq X Ten”
Life technologiesがIon Protonシーケンサーを発表したときに、1,000ドルゲノムを達成できると謳っていた。「1,000ドルゲノム」とは、「ヒト全ゲノム配列を1,000ドル以下のコストで決定できること」を意味している。「1,000ドルゲノム」は、もともと2002年10月ボストンで開かれたワークショップで、ヒト全ゲノム配列を最初に解読したJohn Craig Ventorらが提案した標語である。その後、NIHが次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing; NGS)の技術開発に対して研究グラントを投入したプロジェクトが2004年から始まり、このプロジェクトを「1,000ドルゲノム・プロジェクト」と呼んでいる。 さて、Ion Protonシーケンサーの場合、1,000ドルのコストでヒト全ゲノム配列を解読できる条件は現段階では整っていない。一方で、今回Illuminaが発売を発表した新シーケンサー“HiSeq X Ten”は、計算上は1,000ドルゲノムを達成できると謳っている。 “HiSeq X Ten”は“HiSeq X”という新機種を10台まとめたものである。HiSeqX 1台の性能は次のとおりである。 1個のフローセルでは1ランあたり30億リードの配列を出力できる。リード長150 bp-ペアエンドリード(2 x 150 bp)のときには、800~900 Gb(Giga bases)の配列を3日以内で生み出す。フローセル2つを使うと、3日間で1.6~1.8 Tb(Tera bases)の出力が得られる。リード精度は、リード長150 bpのとき、75%以上の塩基についてQ30(エラー率が0.1%以下)の精度である。なお、最初に発売する機種はヒトゲノム配列決定専用機種になるという。これはハードウエアがヒトゲノム専用というわけでなく、付属ソフトウエアがヒトゲノム専用であるだけで、潜在的には他の生物のゲノムシーケンシングにも使える。なお、HiSeq XはこれまでのHiSeq2500とは違い、新しいケミストリーを用い、かつフローセルはナノウェルが規則的に整列したものを用いている。 ヒトゲノム配列を30倍の冗長度で読むとすると、1人あたり90 Gbの出力が必要なので、1つのフローセルあたり8人のゲノム解析を行える。2つのフローセルを使うと、3日間で16人分の全ゲノム配列を決定できる。360日間(1年間)連続で機器を動かせば、計算上は1,920人の全ゲノム配列が決定できるが、Illuminaは「1台のHiSeq Xを動かすと、1年間で1,800人以上の全ゲノム配列が決定できる」と発表している。したがって、HiSeq X Tenを用いると、1年間に18,000人以上の全ゲノム配列を決定できることになる。 コスト計算であるが、IlluminaのJP Morgan Conferenceでの発表によると、試薬代は$800であり、HiSeq X Tenの機器コスト(HiSeq X Tenを4年間以上利用したときの1ゲノムあたりの減価償却費)は$135であり、人件費は$55~$65となるので、一人のゲノム配列を決めるのに、$990~$1,000になるそうだ。ただし、「管理コスト」、「バイオインフォマティクス解析のコスト」、「シーケンサーの稼働率」および「シーケンシングの失敗率」は考慮していない。 HiSeq X Tenの価格は1000万ドルと発表されたので、1台あたり100万ドル(約1億円)である。すでに、Macrogen、Garvan Institute (オーストラリア)、そしてBroad Instituteから発注があったことが発表された。Broad Instituteの場合には、10台のHiSeq Xのセットでなく、14台のセットだそうだ。Illuminaの発表によると、今年は年間に5セットの製造能力しかないので、残りの枠は2セットということになる。 |
MiSeqとHiSeq 2500の中間機種となる“NextSeq 500”の発売
MiSeqではヒト全ゲノム配列は決定できないが、HiSeq 2500はオーバースペックであると考えるユーザーも多いと思う。そのような要望に応える機種といえる新シーケンサー“NextSeq 500”が発表された。この新機種はIon Protonシーケンサーの対抗馬ともいえる。 NextSeq 500の特徴は、MiSeqより少し大きいデスクトップシーケンサーであり、HiSeq 2500よりシーケンシング時間が短いことである。さらに、高出力用のフローセルと中出力用のフローセルの2種類を用いることができる。これらフローセルを使ったときのシーケンシングのスペックを下表に示す。高出力用のフローセルを使った場合には、4億本のリードと8億本のペアエンドリードが得られる。2 x 150 bpの場合には、29時間で100~120 Gbの出力が得られる。なお、NextSeq 500の価格は$250,000である。 これまでのIlluminaシーケンサーでは塩基ごとに異なる4種類の蛍光を検出してシーケンシングを行っていたが、NextSeq 500では全く異なるケミストリーを用いており、2種類の色だけで4種類の塩基を判別している。これはシーケンシングコストを安くする工夫と思われる。
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自動ライブラリー調製機器“NeoPrep”
Illuminaは、1月16日付けで、自動ライブラリー調製機器“NeoPrep”を夏ころ発売する予定であることを発表した。このNeoPrepを使うと、出発材料として1 ngという少ない量のDNAまたはRNAをもとに、16個までのライブラリーを作製できる。NeoPrepで扱える最初のキットはTruSeq PCR-FreeとTruseq Nanoとなるが、他のTruSeqやNexteraキットもその後に使えるようになるらしい。 |
Illuminaの各シーケンサー間の比較とIon Torrentシーケンサーとの対比
Illuminaのシーケンサーの性能の比較表を下表に示す。なお、性能は各シーケンサーの最大塩基配列出力を与える条件で比較した。下表から、概ね1つ上の機種になるごとに10倍の出力増となり、価格は2.5~3倍増とななることがわかる。Ion Torrentのシーケンサーと対比すると、MiSeqがIon PGMの競合機種であり、NextSeq 500がIon Protonの競合機種になるといえる。概して、Illuminaシーケンサーの方が出力が大きいが、シーケンシングに要する時間はIon Torrentのシーケンサーの方が短い。コストが気になるところであるが、NextSeq 500の試薬コストなどが明確でないので、現時点では比較しがたい。 昨年のGOクラブで、「Illuminaシーケンサーの独走が続いているが、その独走にも陰りが見え始めた」と述べた。しかし、今回のIlluminaの一連の発表により、またIlluminaシーケンサーの独走が続くような状況になってきた。
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