Stratos Genomics Inc.とは
Stratos Genomics Inc.のナノポアシーケンシングの原理・基本技術は、精密機器・電子機器の開発企業であるStratos Product Development LLCで考案された。この基本技術を実用化するために、2007年にStratos Genomics Inc. (以下、Stratosと略す)が設立され、次世代シーケンサーの開発に向けた研究が行われている。Stratosは、2010年9月に4百万ドルのAシリーズの新株発行による資金調達を行った後、さらに今年6月に2.1百万ドルの増資を行い、次世代シーケンサーの開発を加速化させている。Stratosの技術は、“SBX法”または“Sequencing by expansion法”と呼ばれるが、本技術の特許は、米国特許第7,939,259号(High Throughput Nucleic Acid Sequencing by Expansion)として今夏に成立した。また上述のように、本技術開発のテーマはNHGRIAdvanced Sequencing Technology Awards 2011に選ばれている。 |
StratosのSBX(Sequencing by expansion)法の原理
ナノポアシーケンシングの主な問題は、DNAがポアを通過する速度が速すぎるために、塩基配列を精度よく認識できない点、および4種類の塩基自体の識別が容易でない点である。Stratosは、この問題を解決するために、鋳型DNAの塩基配列をもとに、各塩基に対応するレポーター分子を介して元の塩基配列情報を保持した代理ポリマー(“Xpandomer”と呼ぶ)を合成し、この代理ポリマーがナノポアを通るときに塩基配列情報を読み取る手法を開発している。 各塩基に対応するレポーター分子がスペースを空けて並んでいるので、各塩基の識別能が向上する可能性がある。また、元のDNAと比較して、代理ポリマーの長さは50倍になるので、ポリマーがポアを通過する速度が速くても精度よく配列情報を読み取れることが期待できる。 |
StratosのSBX(Sequencing by expansion)法の概要
米国特許第7,939,259号を読むと、様々なバリエーションのSBX法について記載されており、最も有望な方法について発表されていないが、Stratosのホームページに開示されているビデオの情報をもとに、SBX法の代表例について説明する(下図参照)。 (1) 修飾された4塩基のプローブを鋳型DNA(“x-probe”と呼ぶ)をハイブリダイゼーションさせ、DNAリガーゼを用いて連結することにより、代理ポリマー(Xpandomer)を合成する。 (2) x-probeには、図に示すように、ループ上のポリマーが結合しており、その4塩基に対応する4個のレポーター分子が含まれている。また、4塩基中の2番目と3番目の塩基の間が開裂可能な結合になっている(たとえば、80%酢酸処理で切断される構造になっている。) (3) 合成反応が終了したら、各4塩基中の2番目と3番目の塩基を開裂することにより、元のDNAと比べて50倍の長さのXpandomerが生成する。 (4) このXpandomerを相補DNA鎖から引き離し、ソリッドステート・ナノポアを通すことにより、各塩基に対応する(4種類の)レポーター分子がポアを通過するときに変化する電位差を検出することにより、塩基配列を読み取れる。 Stratosの発表によると、ナノポアを並列に並べて、1秒間に1千万塩基以上を解読できるシーケンサーの開発を目指している。 |
想定されるSBX法の利点と欠点
(想定される利点) SBX法は、DNAよりも50倍長いポリマーに変換し、かつレポーター分子を用いて配列を読むことから、ナノポアシーケンシングに共通の課題である塩基配列の解読精度の低下の問題は解決されるように思える。また、SBX法では、XpandomerはDNAではなく、2次構造を形成しないので、ナノポアを問題なく通過できることが期待される。 (想定される欠点) ポリマーXpandomerの長さが元のDNAの50倍になることから、単位時間あたりの配列解読量は低下すると予想される。ただし、1千万塩基/秒の性能とすると、ヒトゲノム配列の冗長度40×に相当するデータは3時間20分で得られるので、実用上は問題ないと思われる。その他、気になる点を列挙する。 ・相補鎖DNAがナノポア通過を邪魔をしないか。 ・サンプル調製に時間がかかる懸念がある。 ・大きな構造を有する4塩基を結合するので、正確にライゲーションが起こるかどうか。 |