7DDNAハプロタイピング法
7(poly)Dimensional DNA (7DDNA) ハプロタイピング法は、Maらが開発した方法で、2010年4月にNature Methods誌に発表された。本方法の概要をヒトゲノムを例として右図を参照しながら説明する。 (1) 血液を集め、フィトヘマグルチニン(PHA)を加えて、T細胞を刺激することにより細胞分裂を促す。その後、コルヒチンを添加することにより、細胞分裂をmetaphase(中期)で停止させる。この中期では、凝縮した46本の染色体が紡錘体赤道面に整列していて、各ハプロイドの染色体が分離しやすい状態にある。なお、中期では、各染色体については倍化した2本のハプロイドゲノムはセントロメアで結合している。 (2) 次に、細胞をスライドグラスに固定化し、細胞を溶解すると、46本のハプロイドゲノムが広がった状態になる(図A)。 (3) スライドグラス上の染色体群をLaser Microdissection Microscopeによりレーザービームで分断する。図Bでは約3分の1に分断した例を示した。図Bでは、15本と半分(=紫色)のハプロイドゲノムが得られているが、黒のゲノムと赤のゲノムは2本ずつあるので、父方のゲノムと母方のゲノムが両方存在することになる。一方、残り11本と半分のハプロイドゲノムは1本ずつしかないので、これらを解析することにより、各ハプロイドのタイピングを行えることになる。 (4) Microdissectionによって得たハプロイド染色体は、Multiple Displacement Amplification (MDA) 法を用いてDNAを増幅した後、IlluminaのビーズアレイなどによりSNP解析を行う。 発表された論文では、ハプロイドごとのSNPが比較的良好に同定できることが示されているが、MDA法によるDNA増幅で極端なバイアスがかかるために、父方のゲノムと母方のゲノムが両方存在するケースでも、領域によっては片方の染色体由来のSNPしか同定できない問題も指摘されている。 図Bのように3分割する方法を用いた場合、計算上は、5回(5個のサンプル)の解析により52%のケースで全ゲノムのハプロタイプが解明できる。8回(8個のサンプル)の解析では93%、12回(12個のサンプル)の解析では99.6%のケースで全ゲノムのハプロタイプが解明できる。 |
Direct Deterministic Phasing (DDP)法
DDP法は、マイクロ流路を用いて各ハプロイド染色体を分離する方法であり、2011年1月にNature Biotechnology誌に発表された。以下に、その方法の概要を説明する。 (1) 細胞懸濁液をマイクロ流路に流し、顕微鏡法により細胞分裂中期の細胞を分離する。 (2) 分離した細胞分裂中期の単細胞をマイクロ流路中でプロテアーゼで処理することにより、各ハプロイド染色体をバラバラにする(なお、倍化した2本のハプロイドゲノムは依然としてセントロメアで結合している)。 (3) マイクロ流路を用いて、バラバラになった46種類のハプロイド染色体を48本のチャンバーにわける。 (4) 各チャンバーに分離された染色体DNAをMDA法を用いてDNA増幅した後、46-loci Taqman genotyping PCRにより染色体の種類を同定する。 (5) 46の染色体を1対のハプロイドを分離して2群にわけた後、それぞれをIlluminaのビーズアレイなどによりSNP解析を行う。 DDP法はマイクロ流路を用いてハプロイド染色体を分離し、MDA法を用いてDNAを増幅するので、並列処理や自動化が可能なので、大量処理に向いていると思われる。ただし、発表された論文では、細胞分裂中期の細胞の同定は人間の目で行っているので、この同定を自動化することが課題となる。 |
1細胞ゲノムシーケンシングとの組み合わせの可能性
上記のいずれの方法も通常のMDA法を用いてDNA増幅を行っているので、増幅される領域に大きなバイアスがかかることが難点である。この問題は、10月12日と24日のGOクラブで紹介した「1細胞からのゲノムシーケンシング」で述べた方法を使えば解決できると思われる。それぞれの方法の論文でも言及されているが、当然のことながら、増幅したDNAを次世代シーケンサーを用いて配列決定を行えば、ハプロイドごとのゲノム配列が得られるはずである。ただし、これらの論文では、ゲノム配列決定までは行っていない。 以上、「7DDNA法またはDDP法のようなハプロイド染色体の分離方法」と「1細胞ゲノムシーケンシング法」を組み合わせることにより、ヒトのハプロイドごとのゲノム配列だけなく、酵母のような真核微生物のゲノムに関しても、ハプロイドごとにゲノム配列を得ることができるであろう。 |