2011年3月7日月曜日

Ion Torrent シーケンサーの新チップ Ion 318 Chipが発表される

 前々回のGOクラブでは、Illuminaが1月11日に「新型シーケンサーMiSeqシステム」を発表し、その発表がLife TechnologiesのIon Torrent PGMシーケンサーとの対抗を意識したものであることを紹介した。今度は、Life Technologiesが2月23日付けで、Ion Torrent PGMシーケンサー用の新しいシーケンシング用半導体チップ“Ion 318 Chip”の概要を発表した。PGMシーケンサーとIon 314 Chipの正式発売が2010年12月14日であった。その後Life Technologiesは1月に入り、新チップ“Ion 316 Chip”の概要を発表した。そしてあまり時間も経っていないのに、「Ion 318 Chipの内容を紹介するとともに、今年9月からEarly Access Userが利用できる予定である。」と発表した。したがって、Illumina MiSeqを意識した発表であると感じられる。今回のGOクラブでは、Ion 318 Chipの概要を紹介し、Illumina MiSeqとの比較について考察する。


Ion 318 chipの性能

 まず、Ion Torrent PGMシーケンサーの概要については、すでにGOクラブで紹介しているので、その記事を 参照してほしい。これまでに、シーケンシング用半導体チップとしては、Ion 314 Chip、Ion 316 Chip、Ion 318 Chipの3種類が発表されている。それぞれの性能の比較を下表にまとめた。なお、いずれのチップも現在発売されているPGMシーケンサーで、アップグ レードなしで、そのまま使えることが公表されている。
項目\チップ
Ion 314
Ion 316
Ion 318
センサー数
120万個610万個1100万個
リード数
10万リード
100万リード
400~800万リード
塩基配列
出力量
~10 Mb
(1 リード長 = 100 bpの場合)
~100 Mb
(1 リード長 = 100 bpの場合)
~1 Gb
(1 リード長 = 200 bpの場合)
利用可能時期発売済2011年4月
(Early Access)
2011年9月
(Early Access)
価格(米国)$250
(試薬 $250)
$500
(試薬 $250)
未公表
Ion Torrent PGMシーケンサーの難点は、サンプル調製に時間がかかることであった。しかし、今回、一度に8種類のサンプルについて6時間でライブラリーを調製できる ことが発表されたので、改善が進んでいるといえる。リード長については、シーケンシング反応機構がRoche-454 FLXシーケンサーのものと類似しているので、1リード長が400 bpには届くことが見込まれている。これまでは100 bpであったが、Life Technologies社内のスペックとしては、1リード=300 bpが得られていることが明らかにされた。

Illumina MiSeqとの比較

 下表に、今年秋時点でのIon Torrent PGMシーケンサーのライバルとなるIllumina MiSeqシステムとの予想性能の比較をまとめた。下表を見ると、両者の性能はおおまかには同等と言える。
項目\シーケンサー
Ion Torrent PGMシーケンサー
Illumina MiSeqシステム
リード数
400~800万リード
340万リード
塩基配列出力量
~1 Gb
(1 リード長 = 200 bpの場合)
~1 Gb
(150 bp×2)
サンプル調製時間6時間2時間+1時間
シーケンシング時間2時間24時間
シーケンサー価格(米国)$50,000
(3台のシーケンサーあたり
1台のサーバ=$165,000が必要)
$125,000
1ランあたりコスト(米国)$750?(未公表)~$750

 しかしながら、シーケンシング精度については、Illumina MiSeqの場合、1リード長=100 bpであれば、妥当な精度が得られるが、それでもIon Torrent PGMシーケンサーの方が優れている。PGMシーケンサーは“Roche-454 FLXシーケンサー”タイプなので、ホモポリマーの配列決定精度が落ちることが懸念されるが、最近の情報ではかなり良い精度が得られているようである。

 リード長については現段階では互角であるが、今後はIon Torrent PGMシーケンサーの方が有利である。両者が類似しているといっても、Ion Torrent PGMシーケンサーはlong-read sequencerであり、MiSeqシステムはshort-read sequencerという位置づけになる。したがって、将来的には、DNAの大きな構造変化(欠失、挿入、転座、置換、重複)などの解析ではIon Torrent PGMシーケンサーの方が有利になるであろう。

 MiSeqが優れている点はサンプル調製時間が短いことである。しかしながら、MiSeqの場合、Bridge PCR amplificationをシーケンサーの中で行う必要があるので、複数サンプルのシーケンシングを行う場合には、時間がかかる。具体的に8サンプルの1 Gb シーケンシングを想定してみると、Ion Torrent PGMシーケンサーの場合、作業は3日以内で終了するであろう。一方、MiSeqの場合は8日以上かかってしまう。

今後の展望

 上述のように、Ion Torrent PGMシーケンサーの性能は、新しいチップの発表ごとに10倍ずつ性能が向上したが、今後もこのトレンドが続くのかどうかは疑問である。もしLife Technologiesがアナウンスしているように、半年ごとに10倍ずつパフォーマンスが向上するのであれば、近い将来1ランでヒトゲノム全シーケンシングも可能になる。
今回のGOクラブでは、“Ion Torrent PGMシーケンサー vs Illumina MiSeq”を意識して紹介した。しかしながら、Ion Torrent PGMシーケンサーはlong-read sequencerなので、シーケンシング原理の点でIllumina MiSeqと基本的な違いがある。Illuminaはこの点も考慮しているのか、10 Gb Pyrosequencerの開発も進めている。その内容は、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が新しい次世代シーケンシング技術開発の研究グラントである“Advanced Sequencing Technology Awards 2008”で公表されている。以下に、その記述を抜粋する。

 We propose to develop a low-cost 10-Gb Pyrosequencer for de novo DNA sequencing that would enable any lab to perform high-throughput genome analyses. The platform implements automated sample preparation scheme combined with massive Pyrosequencing, which will potentially enable mammalian genome sequencing in a single run. A sensitive CMOS image sensor has been designed and fabricated specialized for Pyrosequencing chemistry, which is integrated with fluidic platform. Each well in the fluidic platform has a pixel on CMOS for detection of light signal generated from Pyrosequencing. The integrated chip will have a 2-megapixel CMOS, each pixel located on a single well enabling 2 million sequencing on each chip. Sixteen of such chips are set up on a board to develop a 32-million wells Pyrosequencer which potentially enable sequencing of more than 10 gigabase of genomic DNA. The raw data are immediately collected and assembled with our developed algorithms. We envision that the genome sequencing of mammalian genome to be reduced below $100,000 level for large-scale genome sequencing projects