2011年2月24日木曜日

次世代シーケンサーの短所を相補するBioNanomatrixの1分子DNA解析技術

 次世代シーケンサーはDNA/RNAの1次構造解析に対して優れた性能を有する。ただし、次世代シーケンサーを用いた場合、Copy Number Variationなどのリピート配列や大きな挿入変異などの解析では精度が落ちる上、コンティグのアセンブリーに関しても問題が発生することが多い。一 方、BioNanomatrixやOpGenが開発した1分子DNA構造解析技術は、この次世代シーケンサーの短所を相補する特徴を有する。今回は、 BioNanomatrixの1分子DNA構造解析技術と分析機器nanoAnalyzer 1000を紹介する。


BioNanomatrixが開発した1分子DNA構造解析技術

BioNanomatrixは、Han Cao博士がPrinston大学で開発した「ナノスケール・1分子DNA構造解析技術」をもとに、2003年に設立したベンチャー企業である。
BioNanomatrixが保有する「1分子DNA構造解析技術」の原理を右図に示す。右図のデバイスは、シリコンチップベースのマイクロ流路チップ であり、1分子DNAを引き伸ばし、直接CCDカメラで観察することにより、DNAの構造を解析できるものである。ナノスケールのチャンネルを数千以上内 蔵し、かつ1つのチャンネルで複数DNA分子を観察できるので、一度に多数のDNAを分析できる。1分子DNAを引き延ばす原理であるが、右に向かって大 中小というpillarが配置されているので、コイル状になったDNAがpillarの間を通る間に、順次引き延ばされ、最終的に1本に伸びたDNAが チャンネル内に入っていく。DNAの構造の観察について、目的部位をラベルして、蛍光により検出を行う。なお、分析できるDNAは、1分子native DNAで、分析にあたりPCR増幅は必要ない。分析できるDNAの鎖長は1 Mbまでである。より詳しい説明については、BioNanomatrixのホームページで公開されている情報を参照してほしい。
1分子DNA分析用シリコンチップは、従来の半導体ウェハー製造工場で大量生産できるので、単価は安価になる。この利点を生かして、BioNanomatrixは、Complete Genomicsと共同で、ヒト全ゲノム配列を8時間以内かつ$100以下のコストでシーケンシングできる技術の開発を進めている。

nanoAnalyzer 1000

 BioNanomatrixは、昨年11月に開催されたアメリカ・人類遺伝学会ASHGで、「1分子DNA構造解析技術」を応用した分析機器nanoAnalyzer 1000を発表した。本機器の発売は未定であるが、今年中に発売されるという情報もある。本機器は、DNA解析用シリコンチップを装 着でき、レーザー光で誘起して発せられる蛍光をCCDカメラでイメージデータとして得る機能を有する。イメージデータをもとに、付属ソフトウェアが蛍光の 位置と強度のデータを出力する。詳しくは、BioNanomatrixのホームページの情報を参照してほしい。

BioNanomatrixの技術の評価

 BioNanomatrixの技術は上記のような原理に基づくので、PCR増幅処理がないnative DNAを1分子レベルで直接観察できることが利点である。この原理により、塩基配列は得られないが、次世代シーケンサーによる解析が苦手な「ある程度の大 きさの配列の重複、欠失、挿入、転座など」を解析できる。次世代シーケンサーと比べたときのもう1つの利点は、1 Mbまでの一続きのDNAを観察できるので、1 Mb単位のハプロタイプ分析が可能である。このように、BioNanomatrixの技術は次世代シーケンサーによる解析と相補性があると考えられる。ま た、上述のように、次世代シーケンサーベンチャーComplete Genomicsとの共同開発のように、次世代シーケンサーと組み合わせることにより利点が出てくる可能性もあるだろう。また、簡便にかつ短時間で結果が 出てくるので、ベッド・サイドで使える診断機器としての利用も想定される。以上のような優位性・利点が期待されるが、塩基配列を出力できないことはやはり 欠点となることが予想される。長鎖DNAを電子顕微鏡で直接観察し、塩基配列を出力できるHalcyon Molecularの技術が簡便に利用できるようになると、その優位性も一部薄れる可能性もある。なお、OpGenも独自の1分子DNA構造解析技術を開発しているので、この技術とは競合関係にある。OpGenの技術については、当社では提携先のBeckman Coulter Genomicsとの連携によりサービスを提供しており、今後のGOクラブでも紹介する予定である。