MiSeqを用いたシーケンシングの概要
Illumina MiSeqシステムは、従来機と同じ“Illumina・Sequence-by-synthesis法”を利用しているが、従来機 と異なる点はライブラリー調製、クローナル増幅、シーケンシングに要する時間が大幅に短縮された点、機器が小型になった点、そして1回に1サンプルしか処 理できない点である。MiSeqのライブラリー作製に要する時間は2時間(以内)、クローナル増幅の時間は1時間、シーケンシング反応時間は1 bpあたり約5分、そしてデータ処理の時間は2時間である。したがって、DNA断片の片側を35 bp読む場合(1 ×35 bp)には、全工程が8時間で終了する。2 ×100 bpの場合には19時間かかり、680 Mbの配列が得られる。2 ×150 bpの場合には27時間で約1 Gbの配列データが得られる。1回に解読できる配列数は340万リード以上で、Paired-end libraryの場合には、その倍のリード数が得られる。
ライブラリー調製工程は、後述するEpicentre Biotechnologies社が開発したNextera Technologyを導入して大幅に改良された。なお、Illuminaは、ごく最近Epicentre Biotechnologies社を買収している。一方、クローナル増幅・シーケンシングの工程は、Illuminaが約2年前に買収した Avantome社の技術を活用して、全く新しいマイクロ流路の設計により処理時間を約10分の1に短縮した。米国でのMiSeqシステムの価格は予 価$125,000で、1ランあたりの試薬コストは$400~$750であると発表された。 |
EpicentreのNextera Technologyを用いた超迅速ライブラリー調製
Illuminaシーケンサーや454・GS FLXシーケンサー用のライブラリーを調製するには、少なくとも1μgのDNAを出発材料として、通常6時間かかる。具体的には、Fragmentation (15-30分) ⇒ Collection (15分) ⇒ Concentration (15分) ⇒ Size Selection (60分) ⇒ End-Repair (60分) ⇒ Clean-Up (15分) ⇒ A-Tailing +/- (30分) ⇒ Adaptor Ligation (60分) ⇒ Clean-Up (15分) の工程(計5時間)の後、PCRなどのLibrary Enrichment(~60分)を行う。一方、Nextera Technologyでは、Transposomeを利用してDNA断片化とシーケンシング用アダプター付加を行うことにより、ライブラリー調製が簡便化され、合計1.5時間でライブラリーを調製できる。具体的には、わずか50 ngのDNAを出発材料として、1つのチューブ内でTransoponの転移反応(5分)を行い、続いてClean-Up処理(15分)を行った後、PCRなどのLibrary Enrichment(~60分)を行う。
Nextera Technologyは、Illuminaシーケンサーだけでなく、454・GS FLXシーケンサー用のライブラリー調製にも適用でき、すでにキット製品も発売されている。この優れたNextera Technologyを、SOLiDシーケンサーやIon Torrent SystemsのPGMシーケンサー用のライブラリー調製キットにも適用してほしいと思うが、IlluminaがEpicentre Biotechnologies社を買収したことは若干気になるところである。 |
今後の展望
Ion Torrent Systemsのシーケンサーが 登場したときに、シーケンシング反応が2時間で終了し、半導体チップ内でリアルタイムにデータ処理を行って配列データを出力することは、驚きであった。た だし、ライブラリー調製には時間がかかるので、結局1日以内に全工程を終えることができなかった。ところが、今回発表されたIlluminaのMiSeq システムは全行程を最短8時間で終了させるので、第2世代シーケンサーとしては想定外の大進歩であると思う。Illuminaの発表によると、MiSeq の受注は2011年4月から開始し、納入開始は2011年夏を予定している。 したがって、今回の発表は、Ion Torrent SystemsのPGMシーケンサーとの対抗を意識した、フライング気味の発表とも思える。1サンプルしか解析できないことが欠点であるが、近い将来、1 日で2人分のヒトゲノム配列を決定できるMiSeqの上位機種も登場すると予想される。ライブラリー作製から配列データ出力まで1日以内で終了することが 現実的になったので、配列データを得た後のデータ解析工程の時間短縮とコストダウンの方が重要な課題となってきた。
|