DNAマイクロアレイと次世代シーケンサーを用いるDNA/遺伝子合成技術
近年合成生物学が、環境問題解決を主な出口として発展している。分子生物学/細胞生物学は分析主体の生命科学であるが、一方、合成生物学は解明された生命科学の原理を用いて生物を改良(合成)しようという学問である。医学研究の世界では、1990年代に誕生した「DNAマイクロアレイ」は「ゲノム創薬」を推進し、「次世代シーケンサー」は「個別化医療」を切り開いている。最近、もともと「分析ツール」として開発された「DNAマイクロアレイ」と「次世代シーケンサー」を、「合成生物学」においてDNA/遺伝子の「合成ツール」として使う「Megacloning技術」が開発されたので、今回GOクラブで紹介する。
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Megacloning技術の概要
Harvard大学のGeorge M Churchらとドイツのベンチャー企業“Febit”は、第2世代シーケンサーを利用して、膨大な種類の合成DNAを一度に作製する技術”Megacloning”を開発し、Nature Biotechnology誌の2010年12月号に発表した。「Megacloning技術」の概要を下図に図式化した。第2世代シーケンサーでは、PCRなどによるDNA分子を増幅し、かつシーケンシング反応によりその配列を決定するという原理を用いている。別の見方をすると、「第2世代シーケンサーには、配列確認済みの合成DNAが多数存在する。」と捉えることができる。「Megacloning技術」は、この第2世代シーケンサーの特性に着目した新しいHigh-Throughput DNA合成技術である。まさに「コロンブスの卵」という印象を受けた。以下に、「Megacloning技術」について概説する。
最初のDNAソースは、Microarray上のDNA、通常のオリゴ合成法で調製されたDNAあるいはその他のソースでもよい。Febitは、独自のマイクロアレイ上でのオリゴDNA合成技術を開発したベンチャー企業であるので、この技術を用いて合成したマイクロアレイ上のオリゴDNAを出発材料とした。オリゴDNAをマイクロアレイ上で合成した場合の問題は、配列のエラー率である。概ね40塩基に1塩基のエラーが発生する。したがって、マイクロアレイ上で合成したオリゴDNAをそのまま合成生物学で利用する遺伝子やゲノムの合成には利用できない。そこで、マイクロアレイ上のオリゴDNAを回収し、PCR法によりマイクロビーズ上でDNAを増幅させた後、454 FLXシーケンサーでシーケンシングを行った。そのシーケンシングにより予想の配列を持つマイクロビーズを選び、そのビーズを微小ピペットを持つロボットを用いてピックアップし、マルチタイタープレートのウェルに並び替える。各ウェル内のビーズ上のDNAをPCRで増幅することにより合成DNAを得ることができる。この方法により調製された合成DNAの配列のエラー率は概ね20,000塩基に1塩基となり、約500倍精度が向上した。さらに、これら合成DNAをもとに、Assembly PCR法などにより遺伝子などの大きなDNAを調製することができる。George M Churchらは、Nature Biotechnologyの論文の中で、454 FLXシーケンサーを用いる方法だと、一回に1 Mb (百万塩基)分のDNAを合成できるが、1回のDNA合成規模は1 Gb まで拡大できるであろうと述べている。 |
今後の展開
Nature Biotechnologyに発表された実験の段階では、上記DNAの合成はマニュアルの部分も多く、完全に自動化されていない。Febitの研究者は、別会社を設立し、本技術をもとに遺伝子合成をより安価に提供するサービスの事業化を考えているが、いつ事業化されるかは未定である。もし本方法で遺伝子合成ビジネスを行った場合には、1 bpあたり5~8円の価格になるらしい。もし大腸菌K-12株のゲノムを全合成したら、DNA代金は約2300万円となる。3年半前にSanger-キャピラリーシーケンサーと454 FLXシーケンサーの組み合わせにより大腸菌ゲノム配列を決定したときの当社の価格が約2000万円であったことを考えると、遺伝子合成技術も大きく進歩したと思う。近い将来、次世代シーケンシング技術を応用したDNA/遺伝子合成機器が登場する予感がする。
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