2015年12月28日月曜日

バイオデジタル革命を先導する企業-ゲノム診断

 GOクラブでは、今年から「次世代シーケンサー」に加えて、「ゲノム診断」、「DTC遺伝学的(遺伝子)検査」、「ウェアラブルデバイス(モバイルヘルス)」、「バイオ分野のビッグデータ解析」などの分野の技術やビジネスについて話題を提供している。今後、これらの分野でGOクラブが注目する企業・組織をリストアップして紹介する予定であるが、今回はゲノム診断ビジネスを推進する企業・組織をまとめてみたい。


ゲノム診断ビジネスの概観

 ゲノム診断の内容・定義については、以前のGOクラブの記事で紹介したので、その記事を参照してほしい。ゲノム診断を「がんゲノム診断」、「出生前診断」、「特定疾患」、「疾病を問わない診断」の領域に分けると、最も進んでいる領域は「がんゲノム診断」であり、続いて「出生前診断」である。また、エキソーム解析により全疾病の発症や進展に関わる変異の有無を診断する「広い疾病を対象とする診断」も米国で普及しつつある。それぞれの領域の診断サービスを推進する企業・組織を以下に紹介する。

がん診断

 がんは、先進諸国では死亡原因の第1位または第2位であり、疾病発症の原因が遺伝子変異によることから、全疾病の中でゲノム診断が最も進んでいる。

 企業名 〔GOクラブの紹介記事〕 事業内容・特徴
 Foundation Medicine, Inc.
  〔2015年2月23日付の記事
本社は米国Massachusetts州Cambridgeにあり、2013年9月にNASDAQに上場している。今年4月にRoche(F. Hoffmann-La Roche Ltd)による56.3%の株式の取得が発表され、実質Rocheの傘下に入った。Foundation Medicineはがんゲノム診断のパイオニアで、最も注目すべき企業といえる。
 Genomic Health, Inc. 本社は米国California州Redwood Cityにあり、2005年9月にNASDAQに上場している。Foundation MedicineはNGSの高度活用を売りとする診断サービスを提供しているが、Genomic Healthは臓器特異的腫瘍で、より広い検査結果をもとに治療を選択するサービス(Oncotype DXと命名)を提供している。
 NeoGenomics Laboratories, Inc.本社は米国Florida州Fort Myersにあり、2004年3月にNASDAQに上場している。遺伝子診断だけでなく、がん疾病に関わる広範囲にわたる検査を提供することが特徴である。
 Natera, Inc.本社は米国California州San Carlosにあり、今年7月にNASDAQに上場している。NGSを用いた出生前診断を得意とする企業であるが、がんゲノム診断も推進している。
 ParadigmParadigmは、個人のゲノム情報をベースとした医療を提供することを目的として、Michigan大学とInternational Genetics Consortiumが2012年に創設した非営利の医療診断会社(本部:米国Michigan州Ann Arbor)である。 NGSをベースとするParadigm Cancer Diagnostic (PCDx) と命名したゲノム診断を提供している。今後がんの診断を皮切りに他の疾病に拡大していく予定である。
 Personal Genome Diagnostics, Inc.John Hopkins大学発のがんゲノム診断ベンチャー企業(2010年設立)で、本社は米国Maryland州Baltimoreにある。がん遺伝子METの増幅検出や肺がんゲノム検査などに特徴を有する。
 Asuragen, Inc.本社が米国Texas州Austinにあるベンチャー企業(2006年設立)である。脆弱X症候群の遺伝子診断を売りにしてきたが、最近はがん遺伝子のパネルシーケンシングによるがん診断に力を入れている。
 GenomOncolgy LLC.がんゲノム診断用ソフトウェアを開発するベンチャー企業(2012年設立)で、本社は米国Ohio州Clevelandにある。ゲノム検査あるいはゲノム診断を実施する企業・組織の事業を支援するソフトウェアを開発することに注力している点で、上記のがんゲノム診断企業とは異なるビジネスを展開している。

出生前診断

 出生前診断は、がん診断に次いで、ゲノム診断の有用性が注目されている領域であり、数多くの企業が診断ビジネスを展開している。

 企業名 事業内容・特徴
 Sequenom, Inc.  〔2013年9月13日付の記事本社は米国California州San Diegoにあり、NASDAQに上場している。もともとは MALDI-TOF質量分析計を用いたSNPタイピングで著名であったが、最近は次世代シーケンシング(NGS)解析を用いたダウン症などの出生前診断やがんゲノム診断に注力している。
 Verinata Health  〔2013年9月13日付の記事本社が米国California州Redwood Cityにあるベンチャー企業であったが、2013年1月にIllumina, Inc. (Illumina)による買収が発表され、Illuminaの傘下に入った。ダウン症診断などNGSを用いた出生前診断に特化したビジネスを推進している。
 Ariosa Diagnostics  〔2013年9月13日付の記事本社が米国California州San Joseにあるベンチャー企業であったが、2014年12月にRocheによる買収が発表され、Rocheの傘下に入った。血液中の細胞フリーDNAのNGS解析による出生前診断に特化したビジネスを推進している。
 Natera, Inc.  〔2013年9月13日付の記事上述のとおり、がんゲノム診断も推進しているが、NGSを用いた出生前診断を得意とする企業である。
 Good Start Genetics, Inc.出生前ゲノム診断に特化したベンチャー企業(2008年設立)で、本社は米国Massachusett州Bosstonにある。母体の血液由来の胎児DNAだけでなく、受精卵DNAも対象として、NGS解析による出生前診断ビジネスを推進している。
 Ravgen Inc.出生前診断に特化したベンンチャー企業(2000年設立)で、本社は米国Maryland州Columbiaにある。血液中のフリーDNAを解析して出生前診断を行うが、母体由来の血球の溶解率を減少させることにより、胎児由来のDNAの割合を増やす技術を保有している点が特徴的である。

広い疾病を対象とするゲノム診断

 全遺伝子領域のシーケンシングを行い、疾病発症に関わる変異を網羅的に同定する診断や検査を提供する企業も数多い。解析手法はエキソームシーケンシングが多いが、疾病罹患遺伝子をパネル化したターゲットシーケンシングもよく用いられる。Human Longevity, Inc.などが全ゲノムシーケンシングをベースとした疾患変異解析を始めているが、全ゲノム-全疾病診断サービスを推進している企業はまだない。

 企業名 事業内容・特徴
 Personalis, Inc.エキソームシーケンシングに基づくゲノム診断を得意とするベンチャー企業(2011年設立)で、本社は米国California州Menlo Parkにある。エキソン(exon)以外に、疾病変異が存在すると予想される転写制御領域なども含めて、NGS解析領域を拡大したエキソームシーケンシングを行うことが特徴的である。
 InVitae Corporation2012年に設立されたベンチャー企業で、今年2月にNASDAQに上場している。本社は米国California州San Franciscoにある。心疾患、遺伝性がん疾患、小児疾患、脳神経系疾患、血液疾患を対象に、遺伝子パネルのNGS解析により、多様な疾病のゲノム診断を実施している。
 Ambry Genetics Corporation本社が米国California州Aliso Viejoにあるベンチャー企業(2009年設立)である。ゲノム解析受託サービスビジネスを推進してきたが、最近ゲノム診断ビジネスも手掛けている。手法はマイクロアレイ、遺伝子パネルシーケンシング、エキソームシーケンシングと幅広い。
 PierianDx本社が米国Missouri州St. Louisにあるベンチャー企業(2014年設立)である。NGSデータをもとにした疾病変異同定から診療情報管理をカバーするITシステムが売りで、"Clinical Genomicist Workstation" はWashington Universityで2011年から利用されている。
 Emory UniversityEmory University's School of MedicineのEmory Genetics Laboratoryがゲノム診断サービスを提供している。エキソームシーケンシングにより、ほぼ全遺伝子に渡って疾病変異を同定し、ゲノム診断(サービス名:EmExome)を行っているが、全遺伝子を対象とするゲノム診断では最初の臨床検査室である。

特定疾患領域のゲノム診断

 特定疾患領域のゲノム診断サービスを提供している企業として、Courtagen Life Sciences, Inc. (2003年に設立)が挙げられる。本社は米国Massachusetts州Woburnにある。ミトコンドリアDNAの変異に起因する疾病とてんかんなどの脳神経系疾患のゲノム診断に特化した診断事業を展開している。

T細胞受容体・B細胞受容体のNGS解析

 T細胞受容体・B細胞受容体のNGS解析に基づく治療薬や診断法の開発を進めている企業としては、Adaptive Biotechnologies CorporationiRepertoire, Inc.Atreca, Inc.GigaGen, Inc.が挙げられる。これらの企業の事業内容については、以前のGOクラブの連載記事で紹介したので、その連載記事〔T細胞・B細胞受容体シーケンシングビジネスの勃興(前編)、(中編)、(後編)〕を参照してほしい。なお、T細胞受容体・B細胞受容体のNGS解析のパイオニアであったSequenta, Inc.は、今年1月にAdaptive Biotechnologies Corporationに買収された。

マイクロバイオーム解析

  ヒト組織に棲む微生物叢(マイクロバイオーム)のゲノム情報を解析し、疾病診断や健康管理に生かそうとするビジネスも進展している。ヒトマイクロバイオーム解析を推進している企業としては、Second Genome, Inc.、 Vedanta Biosciences Inc.、 ViThera Pharmaceuticals, Inc.、  Seres Therapeutics, Inc.、 ENTEROME Bioscience SA、 MicroBiome Therapeutics, LLC.、 Whole Biome, Inc.、 uBiome, Inc.が挙げられるが、これらの企業の事業内容については、以前のGOクラブの記事で紹介した。