2014年12月22日月曜日

主な次世代シーケンサーの原理・特徴と市販・開発状況(2015年版)

 GOクラブでは、2012年、2013年と年末に次世代シーケンサーの分類および各機種の状況について紹介してきた。今回の記事では、昨年に引き続き、2014年末時点での主な第2世代、第3世代(第4世代と呼ばれるものも含める)シーケンサーの原理・特徴ならびに市販・開発状況に関してまとめたので、紹介する。


主な第2世代シーケンサー

DNA合成・光検出法を用いた超並列シーケンシング
 GOクラブでは、DNAポリメラーゼまたはDNAリガーゼによる逐次的DNA合成法を用いて、蛍光・発光の光検出により、超並列的に塩基配列決定を行う技術をもとにしたシーケンサーを「第2世代シーケンサー」として分類してきた。現在発表されている主なものを下に示す。第2世代シーケンサーは、DNA増幅などを含めたサンプル調整や、光検出を行うための試薬や検出器を必要とするため、コストが高くなりがちである。しかし、近年では性能の向上とランニングコストの低減も、技術の進歩とともに進められている。

 ステータス 開発企業/機関 原理・特徴 販売・開発状況
1.発売済  Roche-454 DNA合成時に放出されるPyrophosphateを検出する技術(Pyrosequencing)を実用化し、世界で初めて次世代シーケンサーを市販した。 最新の機種はGS FLX+ システムとGS Junior システムの2種類が利用できる。ただし、2016年内にシーケンサービジネスを終了する予定である。
1.発売済 Illumina  逐次DNA合成型で取り込まれた塩基を4色の蛍光色素で検出する。新しい機種NextSeq500では、2色蛍光色素で塩基を同定する方法を用いている。 現在販売されている機種は、MiSeq, NextSeq 500, HiSeq 2500, HiSeqX Tenの4種類で、HiSeqXTenは1000ドルゲノムを達成した機種である。
1.受託解析として利用可能 Complete Genomics DNAを増幅した後、蛍光色素を付与したオリゴマーをライゲーション反応により結合していくことにより、配列を決定する。 中国企業BGIに買収された。ヒト全ゲノムおよびエキソーム解析の受託サービスのみ提供している。
1.受託解析として利用可能(過去に発売済)  SeqLL (Helicos Biosciences) 1分子DNA/RNAを鋳型として逐次型DNA合成を行い、塩基取り込みを蛍光で検出する。1分子でシーケンシングできるので、第3世代の特徴も併せ持つ。 Helicos Biosciencesは2012年11月に破産により事業を中止した。その後、2013年3月にSeqLL, LLC がHelicosの資産を承継し、受託シーケンシングサービス事業を開始することをアナウンスした。
1.発売済(現在はほとんど売れていない) Life Technologies (SOLiD)  蛍光色素を持つオリゴDNAをライゲーション反応により結合していくことで配列を決定する。 SOLiDシーケンサーと呼ばれる機器が利用されていたが、最近ではほとんど売れなくなったと思われる。
1.発売済(現在はほとんど売れていない) Danaher Motion Polonator 蛍光色素を持つオリゴDNAをライゲーション反応により結合していくことで配列を決定する。 OpenSourceシーケンサーとして一時期話題になったが、現在はほとんど使われていないと思われる。
2.シーケンサー完成&今後発売予定 QIAGEN-Intelligent Bio-Systems  Reversible terminatorsを用いて逐次DNA合成と蛍光検出で配列を決定する。 QIAGENがIntelligent Bio-Systemsの技術とシーケンサーを買収し、今年GeneReaderという製品名でシーケンサーを発売する予定であったが、発売を延期した。
2.シーケンサー完成&今後発売予定  GnuBIO 解読したいDNAに対して6-merのオリゴDNAをハイブリダイズさせて、その6-merの存在を蛍光で検出する仕組み(Sequencing-By-Hybridization)法により配列を決定する。 今年(2014年)シーケンサーが発売される予定であったが、Bio-Rad Laboratories, inc.によって買収された後、シーケンサーの発売は延期された。
3.開発中止 Lightspeed Genomics 蛍光を高速かつ高精度にスキャニングする技術を用いたシーケンシング法の開発を進めていた。 シーケンサーの開発は中止された。
3.開発中止 LaserGen 光(UV)照射により切断可能な蛍光色素を持つヌクレオチドである“Lightning Terminator”を用いて、DNAポリメラーゼにより1塩基ずつ逐次合成して配列を決定する。 シーケンサーの開発は中止された。


主な第3世代シーケンサー

 GOクラブでは、主に以下の2つの原理によるものを「第3世代シーケンサー」と分類してきた。

1分子リアルタイム・シーケンシング
 DNA1分子を鋳型としてDNAポリメラーゼによるDNA合成を行い、蛍光・発光などの光で1塩基ごとの合成反応を検出することにより、リアルタイムで塩基配列を決定するシーケンシング技術。この方法は、DNAポリメラーゼの合成速度で塩基配列を読むために、単位時間当たりの配列決定量も大きいのが特徴である。

Post-light シーケンシング
 ナノポアを用いる方法、または光検出以外の検出方法を用いることによる、超並列的な塩基配列決定技術が多数開発されている。ナノポア・シーケンシング技術の中には、蛍光検出を利用するものもあるが、光検出を行わない場合には、試薬代が安価になり、光検出器が必要なくなるため、機器も安価になることが期待されている。またDNAサンプル調製もより簡便になると思われる。

 ステータス 開発企業/機関 原理・特徴 販売・開発状況
1.発売済  Pacific Biosciences 1分子DNAを鋳型としてDNAポリメラーゼが蛍光色素を持つヌクレオチドを取り込むときに、蛍光を検出して配列を決定する。 Pacbio RS II DNA Sequencing Systemを発売しており、特にロングリードの用途で用いられている。
1.発売済 Life Technologies/Ion Torrent Systems  半導体センサーを用いて塩基の取り込みに伴うpH変化の検出により配列を決定するPyrosequencerを開発し、市販している。 最大2 Gbの配列出力を有するIon Torrent PGMシステムと最大10 Gbの配列出力を有するIon Protonシステムが販売されている。
2.機器が利用可能な段階に到達 NABsys 1本鎖の鋳型DNAに対してオリゴDNAをハイブリダイズさせた後、オリゴDNAのハイブリダイゼーションにより生成した2本鎖領域をソリッドステートナノポアを通して検出する技術を開発した。ただし、シーケンサーの開発までには至っていない。 DNAの大きな構造変化を検出できる分析機NPS 8000(DNAシーケンサーではない)を2013年に発表したが、まだ市販に至っていない。
2.機器が利用可能な段階に到達  Oxford Nanopore Technologies 2本鎖DNAをDNAポリメラーゼを用いて解きほぐし、片方の1本鎖DNAをプロテインナノポアを通過させたときに電流の変化を検知する方法により配列を決定する。 世界で初めてナンポアシーケンサーを実用化した。USBメモリー用のナノポアシーケンサーであるMinIONデバイスをアーリーアクセス・ユーザーに配布し、Pacific Biosciencesのシーケンサーに迫る性能が出ることが実証された。さらに上位機種となるPromethIONデバイスのアーリーアクセスプログラムも近々始めることが発表された。
2.機器が利用可能な段階に到達 GenapSys ライブラリー作製からDNAシーケンシングまでの操作をより簡単にし、さらに半導体チップを用いてシーケンシングを行うことにより、iPad程度のサイズのポータブル半導体シーケンサーを開発した。 すでにシーケンサーのβ版は完成しており、アーリーアクセスユーザーを募集しているが、その進捗状況について不明である。
3.機器の実用化が近い Genia (外部サイト) 1本鎖DNAを鋳型とするDNA合成反応に伴ってタグ付き分子が遊離され、そのタグ付き分子がプロテイン・ナノポアを通過するときに、イオン電流変化を検出することにより塩基を読み取る技術(Nano- SBS技術)を開発した。 RocheがGeniaを買収したことから、シーケンサーの開発は進んでいるものと予想する。
3.機器の実用化が近い Base4 Innovations 2本鎖DNAの3’末端から、ヌクレオチドがPyrophosphateと反応してヌクレオチド-3リン酸(dNTP)が遊離される。このdNTP分子が微小液滴に閉じ込められた後、微小流路を流れる間に、強い蛍光を発するカスケード型化学変化が起こる。この蛍光をナノポアを用いて検出することにより配列を決定する。 近い将来IlluminaのHiSeq X Tenを上回る性能を有するシーケンサーが登場する可能性がある。
4.実用に耐えうる技術を確立 Stratos Genomics ターゲットDNAを鋳型として、Xpandomerと呼ぶ長鎖の代理DNAを合成し、この代理DNAがナノポアを通過するときの電流変化を検出することにより配列を決定する。 Rocheが今年(2014年)6月にGeniaの買収に続いて、Stratos Genomicsシーケンシング技術の開発に投資を行った。
5.アーリー・ステージ  Quantapore ターゲットDNAを色素でラベルし、そのDNAをプロテインナノポアを通し、Quantum Dotの機構により発せられる蛍光を検出して、配列を決定する。 今年(2014年)5月にシリーズBファイナンスとして35百万ドル(35~40億円)の資金調達を行ったことから、シーケンシング技術の開発は相当進んでいると思われる。しかしながら、スペックも発表されていないので、アーリーステージにあると評価した。
5.アーリー・ステージ Eve Biomedical 「1分子回転依存性転写シーケンンシング法」と「1分子電界効果トランジスタを用いた転写によるシーケンシング法」の2種類の技術を確立している。 原理的には実用性が高い2種類の技術の開発を発表していることから、今後実用化に耐えるシーケンサーを発表する可能性がある。
5.アーリー・ステージ Quantum Biosystems マイクロ流路技術を用いてターゲットDNA分子を分離して、トンネル電極を利用したゲーティングナノポア法により塩基ごとに異なる電流値を検出して配列を決定する。 外部への発表も活発であることから、シーケンサーの開発は進展しているものと推測する。ただし、これまで発表されたスペックから評価すると、開発ステージは「アーリー」と思われる。


これまでGOクラブで紹介した「次世代シーケンサーの分類」

 GOクラブの記事タイトル 内容
 次世代シーケンサーの分類 2010年3月26日時点でのシーケンシング原理別分類
 次世代シーケンサーの分類(改訂版) 2011年9月27日時点でのシーケンシング原理別分類
 次世代シーケンサーの分類(2013年版 2012年12月末時点でのシーケンシング原理別分類 
 次世代シーケンサーの分類(2014年版 2013年12月末時点でのシーケンシング原理別分類 
 次世代シーケンサーの新しい分類について考える 次世代シーケンサーの用途別分類
 新・次世代シーケンサーの新しい分類について考える 次世代シーケンサーの用途別分類の改訂版