AdaptiveのTCRシーケンシング法
以下に、AdaptiveのTCRβ鎖シーケンシング法について説明する。TCRβ鎖の再構成領域の染色体DNAの構造を右図に示す。Adaptiveは、Vβ領域(青色)の一部と一致する配列(19~31 mer)にIlluminaシーケンサーのBridge Amplification用の配列(黒色)を付加した45種類のVF PCR primerをデザインした。一方、Jβ領域(橙色)の一部と一致する配列(22~35 mer)にIlluminaシーケンサーのBridge Amplification用の配列(黒色)を付加した13種類のJR PCR primerをデザインした。 これらの2組のForwardプライマーとReverseプライマーを用いたPCR法により、TCRβ鎖の再構成領域を増幅した後、J領域に対応する13種類のシーケンシングプライマー(おそらく13種類のミックス・プライマーを利用)を用いてIllumina シーケンサーによりシーケンシングを行う。Illumina GA2シーケンサーの場合には、54塩基の配列を決定しているが、この程度の長さでもVDJ結合部位の配列多様性を調べることができる。 Sequentaも、染色体DNA由来のTCRβ鎖再構成領域のシーケンシングについては、Adaptiveと同様に、多種類のVβ領域のプライマーと多種類のJβ領域のプライマーを用いて増幅するが、1次PCRにより、シーケンシング用プライマー配列(2種類)の付加と目的領域の増幅を行った後に、2次PCRにより、Illumina Bridge Amplification用の配列とTAG配列を付加している。SequentaはmRNA由来のTCRβ鎖cDNAをPCRで増幅するには、Cβ鎖のプライマーを用いる技術も発表している(前編を参照のこと)。 |
AdaptiveのTCR・BCR解析サービス
Adaptiveも、SequentaのClonoSIGHTサービスと同様に、微リンパ系腫瘍で治療法後に発生する微小残存病変(minimal residual disease; MRD)の検出サービス(ClonoSEQ)を今年中頃に開始することを昨年12月6日に発表している。Adaptiveも、Sequentaも、Illuminaシーケンサーを用いたTCR・BCRシーケンシングを行い、既存のフローサイトメリー法と比べて感度を大幅に向上させているが、両者の優劣は今のところ不明である。 Adaptiveは、Sequentaと異なり、上述の技術を活用したImmunoSEQと名付けたTCR・BCRシーケンシングサービスを行っている。Adaptiveのウェブページには価格も明記されている。現時点での受託解析サービスとして、ヒトのTCRβ鎖、TCRγ鎖ならびに免疫グロブリンH鎖のシーケンシングであり、対象サンプルは染色体DNA、mRNA、組織および細胞のいずれも受け付けている。なお、マウスについてはTCRβ鎖のシーケシングのみ受託解析を受けている。なお、TCR・BCR遺伝子のシーケンシング受託サービスについては、iRepertoireがより広範なサービスを提供しているので、次回のGOクラブで紹介したい。 |
AdaptiveとSequentaの技術の比較
Sequentaの技術は、2段階PCR法によりTCR・BCR領域を増幅するので、Adaptiveの1回のPCRによる領域増幅よりも、PCRバイアスが大きくなる懸念がある。一方で、Sequentaの場合には、シーケンシングプライマーが単一になり、かつサンプルを分別できるTAG配列を付与できるので、シーケンシング部分での優位性がある。また、mRNAを解析対象とするの場合には、Reverse primerとして2種類しかないCβ鎖の配列を利用する方がPCRバイアスが生じない印象を受けるので、Sequentaの方が有利のようにも思える。以上、いずれも開示された方法に関する理論上の優劣の推測なので、実際の優劣については今後明らかになると思われる。 TCRはα鎖/β鎖、ならびにγ鎖/δ鎖の2種が会合しているし、BCRはH鎖とL鎖の2種類が会合している。すなわち、1つの細胞には、これら2種の組合せで抗原特異性が決まるTCRまたはBCRを持つ。これまで紹介したSequentaとAdaptiveの技術では、これら2種の組合せ情報は得られない。この問題を解決するには、単純には、リンパ球1細胞から調製した染色体DNAやmRNAをもとにシーケンシングを行えばよい。次回のGOクラブでは、この問題と話題について論じてみたい。 |