XLポリメラーゼとMagBeadによるシーケンシング性能の向上
従来のC2シーケンシング・ケミストリーとC2ポリメラーゼを用いてPacBio RSシーケンサーでシーケンシングを行うと、研究機関により異なるが、リード数は25,000~50,000、平均リード長が2.6~4.0 kbの配列が得られることが報告されている。1ランあたりの出力量は約100 Mbである。AGBT2013でCold Spring Harbor LaboratoryのAntoniou博士らが、新しいDNAポリメラーゼである“XLポリメラーゼ”と新しいサンプル・ローディング法である“MagBead”を用いると、リード長が平均4.5 kbに伸びることを報告した。なお、“MagBead”は、磁気ビーズを使ったサンプル・ローディング法である。 RSシーケンサーでは、Zero-Mode Waveguide (ZMW)と呼ばれる微小の穴に鋳型のDNAが「拡散」現象により入った後で、ZMWの底に固定化されているDNAポリメラーゼがその鋳型DNAをトラップすることにより、シーケンシング反応が始まる。鋳型のDNA分子が長いほど、ZMWに入りにくくなり、また単純な「拡散」作用では鋳型DNAがZMWに入る効率も良くない。今回発表された“MagBead”は、この欠点を改善するものである。 なお、この“XLポリメラーゼ”と“MagBead”については、PacBioの研究者が今年1月12~16日にSan Diegoで開催されたInternational Plant & Animal Genome XXIでもポスターで発表している。 |
ライブラリー作製を行わないシーケンシング法
Sanger InstituteのCouplandらは、ライブラリー作製を行わずに、サンプルDNAを直接鋳型としてRSシーケンサーを用いてシーケンシングを行えることを昨年発表した。 RSシーケンサーを用いてシーケンシング反応を行う場合には、DNAポリメラーゼが反応を開始するためにPacBio SMRT bellと呼ぶ構造を持つライブラリーを作製する必要がある。Couplandらは、大腸菌ファージM13の1本鎖DNAまたは2本鎖DNAに対して、短い1本鎖DNAのプライマーをアニールさせた後、RSシーケンサーを用いてシーケンシングを行ったところ、反応頻度は低いものの、シーケンシング反応を行えることを実証した。2本鎖DNAを鋳型とする場合には、熱処理を行い、部分的に解きほぐれた領域にプライマーをアニールさせてシーケンシング反応を行っている。プライマーは特定のプライマーだけでなく、ランダムプライマーも利用できることから、配列が未知であるDNAのシーケンシングも行える点が優れている。細菌ゲノムDNAを断片化したサンプルをもとに直接シーケンシングを行えることも示しているが、反応効率がかなり悪いので、本方法は環状DNAのシーケンシングに向いている。 この方法により、PacBioのシーケンシングには通常400~500 ngのDNAが必要であるが、1 ng以下(800 pg)でもシーケンシングが行うことができる。現時点では、平均リード長が1.5 kbでリード数も最大3000であることから、プラスミドやウィルスなどの小さいゲノムのみが解析対象となる。 |
今後の改良の予定
PacBioは、「XLポリメラーゼとMagBead」の利用により、1ランあたりの配列出力量が約250 Mbになると発表している。さらに、今年中に、RSシーケンサーのアップグレードが利用できるようになり、このアップグレードにより1ランあたりの配列出力量が約500 Mbとなることも発表されている。 PacBioシーケンシングの特徴は長いリードが得られることであるが、DNAポリメラーゼ反応機構から想定されるよりもリード長が短い。この原因の一つとして、シーケンシング反応時にレーザー照射により蛍光色素から発せられるエネルギーがDNAポリメラーゼに損傷を与えることにより、DNAポリメラーゼが失活することがわかっている。PacBioは、新しい蛍光色素の利用により、蛍光色素とポリメラーゼの間でエネルギーが移転しない工夫を行うことにより、この問題を解決したようである。この工夫により、リード長が約2倍になり、1ランあたりの配列出力量が約1 Gbとなる予定である |