ヒト全ゲノム解読を行えるGnuBIOシーケンサーの開発
GnuBIOの市販予定の機種は、解読配列量が多くないターゲットシーケンシング用途になると思われる。そのシーケンシング性能としては、250種類のターゲットDNA(平均200 bp)について冗長度40倍の配列決定(配列決定精度99.9%以上)を行い、DNAサンプルの注入から配列出力・マッピング解析までの工程を2.5時間以内に終了する性能を持つ予定であると発表されている。 GnuBIOは、“Advanced Sequencing Technology Awards 2012”の研究グラントも活用して、現行技術をベースに、ヒト全ゲノム解読を行うための技術開発を目指すことを発表した。その目標を下記に示す。なお、下記の目標を達成することにより、DNA注入後6時間以内にヒト全ゲノムの再配列決定を終えることができ、コスト1,000ドル以内で実施できる次世代シーケンサーを開発することを目指している。 目標1: 全ゲノム解読を行うためのDNAライブラリーの調製法を開発する。 目標2: 配列検出用センサーは現在1チャンネルであるが、これを数百チャンネルにスケールアップする。 目標3: シーケンシング反応用のチャンネルの数も数百チャンネルにスケールアップする。 目標4: マイクロ流路内で10 μmの微小液滴を分析できる技術を開発する。 目標5: 空の液滴と増幅DNAを有する液滴を選別できる方法を開発する。 目標6: 現行の解析ソフトウェアを全ゲノム解読用に拡張する。 目標7: 現行のバーコード・クラスタリング・アルゴリズムを拡張する。 |
GnuBIOのシーケンサー市販に向けた最近の動向
GnuBIOの動きとして注目すべき点は、まず、5名の経営陣の中で、CEOとCFOを除く技術系役員3名すべてが、昨年11月に破産した「1分子シーケンサー開発企業であるHelicos Biosciences」の中核メンバーである点である。Sepehr Kiani, PhDが製品開発を担当し、John Healyがインフォマティクスを担当し、そしてTal Raz, PhDが分子生物学(シーケンシング技術)を担当しているが、経験豊富な人材が揃っているので、今後機器開発がスムーズに進むことが期待される。このように米国のベンチャー業界は、失敗してもやり直しがきくどころか、過去の経験を生かしてより良い研究開発を迅速に推進できる点でも優れている。英国の次世代シーケンサー開発企業Solexaの主要メンバーも、SolexaがIlluminaに買収された後、Oxford Nanopore Technologiesに移り、活躍している。次世代シーケンサー開発においても、欧米社会と日本社会の間で起業家環境の大きな落差を垣間見ることができる。 GnuBIOは、優れたメンバーのもとに実用化を加速化するために、「約1,000平方メートルの新しいオフィス&ラボ(One Kendall Square in Cambridge, Massachusetts)に移転したこと」を今年9月5日に発表した。また、「開発を加速化するための資金として、約8億円の開発資金をシリーズB増資により調達できたこと」を今年10月4日付で発表している。 2011年12月25日付のGOクラブで紹介した「GnuBIOシーケンサーβ版のリリース」については、今年10月25日~27日に開催された“Association of Molecular Pathology conference”において “the world’s first fully integrated DNA sequencer”のお披露目という形で発表された。機器の詳細はプレスリリースでは公表されていないが、以前のGOクラブで紹介したように、「DNAサンプルを注入すると、DNA増幅が行われ、マイクロ流路中でシーケンシング反応が起こり、配列データの取得と参照配列に対するマッピング解析などが全自動で行われるタイプのシーケンサー」、すなわち「Sample-to-Answer型シーケンサー」である。GnuBIOは、これを“the K-cup coffee cartridge model of DNA sequencing”と称して、広い層のユーザが手軽に利用できる機器であることを強調している。市販機の上市時期はまだ発表されていないが、早ければ2013年内か、遅くとも2014年内にはGnuBIOシーケンサーが上市されることが見込まれる。 |