C1 Single-Cell Auto Prep System
Fluidigmが開発した C1 Single-Cell Auto Prepは、培養細胞または初代細胞を投入すると、「1細胞分離→洗浄→溶解→cDNA合成→DNA増幅→核酸回収」の工程の処理を約8時間で自動的に実行する機器である。分離に適した細胞の大きさは10~25μmであり、200~1,000個の細胞を投入すると、最大96個の細胞を分離できる。1,000個の細胞を用いたときに、1細胞分離が成功する確率は90%以上である。 分離した96個の細胞については、別の機器であるBioMark HD Systemと連携すると、それぞれの細胞につき、96点のqPCR分析を行うことができる。BioMark HD Systemによる解析については、以前のGOクラブでも紹介した。 C1 Single-Cell Auto PrepはEarly Access Userのみ利用でき、まだ発売日は公表されていない。現時点でのアプリケーションは、特定の遺伝子の発現解析(Targeted gene expression)のみであり、今後全mRNAシーケンシング(Whole transcriptome sequencing )とターゲット・ゲノムシーケンシングを実施できるようになると発表された |
Fluidigmの1細胞単離・核酸調製の原理
以前のGOクラブで、RainDance TechnologiesとGigaGenの1細胞分離技術を紹介したが、どちらの企業も微小液滴に1細胞を取り込ませることにより1細胞分離を実現している。Fluidigmが開発した1細胞分離は、8の字状のマイクロ流路(下図参照)を用いて、その中央部で1細胞(ピンク色の円)がトラップされる仕組みを利用している。1個の細胞がトラップされると、他の細胞が同じ場所に補足されることはない。詳しくは、Fluidigmのホームページで公開されているビデオ説明を参照してほしい。 トラップされた細胞は、左側から洗浄液が出てきて細胞を洗浄した後に、溶解液で細胞を溶解する。その後、放出されたmRNAを鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成する。続いて、PCR法によりDNAを増幅した後に、増幅DNAを回収する(下図参照)。 |
1細胞解析研究を加速化するNIHの研究ファンドと新しい機器
冒頭、NIHが「1細胞解析研究を推進するために、5年間に渡って、70億円(9000万ドル)以上の新しい研究資金を投じることを発表した」ことを紹介した。この資金でサポートされる研究プログラムは、The Single Cell Analysis Program(SCAP)と呼ばれ、3つの研究センターと26の新しいプロジェクトに研究資金が投入される予定である。Fluidigmは、今年の5月8日に「Broad Instituteと共同で、Broad Institute(Massachusetts州、Cambridge)内に新しい1細胞ゲノム研究センターを開設する」ことを発表した。この研究センターにも、SCAP資金が配布される可能性が高いであろう。 また、NIHは、このたびSCAP研究ファンド以外に、1細胞解析の新技術開発「Exceptionally Innovative Tools and Technologies for Single Cell Analysis (R21)」に対して、合計15のテーマに研究資金を配布することを発表した。15テーマの中には、次世代シーケンサーを用いたmRNAシーケンシングのテーマが2つあるほか、1細胞の全ゲノムシーケンシング技術の開発がある。従来の全ゲノムシーケンシングでは、1細胞から全ゲノム配列の20~30%程度の配列しか得られなかったが、この新技術開発では、全ゲノムの80%以上をカバーする配列を得る技術の開発を目指す。なお、NIHは、昨年11月に次世代シーケンサーを使った1細胞トランスクリプトーム解析技術の開発「Studies to evaluate cellular heterogeneity using transcriptional profiling of single cells (U01)」に関して3つのテーマに研究資金を配布している。 これまでのGOクラブ(2011年10月12日、10月24日、11月25日、2012年6月26日、8月08日、8月21日)でも、1細胞分離や1細胞シーケンシングなどの新しい解析技術を紹介した。これら新技術と今回紹介したFluidigmの新装置の登場に加えて、NIHが投じる研究資金が1細胞レベルでの新しい世界を切り開いていくことが期待される。 |