2011年4月12日火曜日

Oxford Nanoporeのシーケンシング技術開発の最新の動向


 Oxford Nanopore Technologies(以下、Oxford Nanoporeと略す)は、alpha-hemolysinタンパク質を利用したナノポアシーケンシング技術の開発で著名なベンチャー企業であるが、シーケンサーの開発の進展に関してはベールに包まれたままであった。Oxford Nanoporeは、ごく最近シーケンサーのプロトタイプとなる“Oxford Nanopore GridION system”の概要を発表した。このような動きから、Oxford Nanoporeのナノポアシーケンサーのリリースが近づいてきたと思われる。今回のGOクラブでは、Oxford Nanoporeのナノポアシーケンシング技術開発の最近の動向についてまとめる。

Oxford Nanoporeのタンパク質ナノポアシーケンシング技術

Oxford Nanoporeは、alpha-hemolysinタンパク質を利用したナノポアシーケンシング技術として、“Exonuclease sequencing”と“Strand Sequencing”の2種類の技術の開発を進めている。この他、“ソリッドステート・ナノポアを利用したシーケンシング技術(SOLiD state sequencing)”の開発を進めている。以下に、これら3種類のシーケンシング技術を説明する。
(1) Exonuclease sequencing
alpha-hemolysinのナノポアに1分子のExonucleaseが結合している。このExonucleaseによって1本鎖DNAが末端か ら1塩基ずつ分解され、分解によって生じたヌクレオチドがナノポアを通るときに、塩基特異的な電流の変化が起こる。この電流の変化を検出することにより、 各4種類の塩基に特異的なシグナルを得て、塩基配列を決定できるという原理である。すでに塩基配列が読み取れることは証明されているが、シーケンシングのリード長や精度に関しては開示されていない。なお、メチル化シトシンも読み取れることが報告されている。本技術の商業化に関しては、Illuminaとの提携が発表されている
(2) Strand Sequencing
Strand Sequencingは、1本鎖DNAがalpha-hemolysinのポアを直接通過するときの電流の変化を検出し、塩基配列を読み取る技術である。 ナノポアシーケンシングはDNAがナノポアを通過する速度が速いことが問題点であり、この速度を遅くするための研究開発が進められている。また alpha-hemolysinポアによる4塩基の識別能もまだ不十分であり、alpha-hemolysinに変異を入れて識別能を高める研究が行われている。
(3) SOLiD state sequencing
Harvard大学のDaniel Branton教授とJene Golovchenko教授と共同で、ソリッドステートに開けたナノポアにDNAを通すことにより塩基配列を読み取る技術開発を進めることを2008年8月に発表している。また、Harvard大学のGolovchenko教授らは、Grapheneシートに開けたナノポアを使ったシーケンシング゙技術について2010年にNatureに発表しているが、Oxford Nanoporeは本技術についても、その共同開発と商業化についてHarvard大学から独占的利用権を獲得したことを今年(2011年)3月11日に発表した

Oxford Nanopore GridION system

Oxford Nanoporeは今年(2011年)1月に、シーケンサーのプロトタイプとなる“Oxford Nanopore GridION system”の概要を発表したが、本システムは他社の次世代シーケンサーとは異なる特徴を持っているので、以下にその特徴をまとめる。

(1)  シーケンシング反応は、Sensor Array Chip内で行われる。Sensor Array Chipには、マイクロウェルが多数格子状に並んでおり、各マイクロウェルには脂質2重膜に埋め込まれたalpha-hemolysinのポアが存在する。
(2)  DNAだけでなく、タンパク質、その他低分子物質やポリマーなど多様な化合物をナノポアで検出できるらしい。
(3)  Sensor Array Chipはディスポーザルのカートリッジに格納されており、そのカートリッジはラックマウント型サーバのようなシーケンサーに簡単に挿入でき、検出反応を 行える仕組みになっている。このラックマウント型シーケンサー1台はノード(Node)と呼ぶ。
(4)  1ノードだけでもシーケンシング解析は可能であり、またラックマウント型サーバのように、多数のノードのシーケンサーを並列に動かすことができる。各ノードのシーケンサーをネットワークを通じて連携させて解析することも可能である。

“Oxford Nanopore GridION system”の詳細については、Oxford Nanoporeが公開しているビデオを参照してほしい。

今後の展開

Oxford Nanoporeは、今年1月に、上述の“Oxford Nanopore GridION system”を発表し、さらに今年3月16日付けで、“GridION system”用の次世代シーケンス解析用のソフトウェアの開発をAccelrysと組んで進めることが発表した。 このような動向から、“GridION system”のリリースは近づいていると予想される。多数のナノポアシーケンシング技術の開発が行われているが、この“Oxford Nanopore GridION system”が最初に市販されるナノポアシーケンサーとなるであろう。ただし、Oxford Nanopore ナノポアシーケンサーは、大規模ヒトゲノム解析に使われるというより、サンプル調製が簡便であり、操作自体も簡便なシステムであることを「売り」にして登 場すると、GOクラブでは予想している。