IBMがロシュと共同で開発を進める“DNA Transistor”-IBMとロシュの狙い(2010年7月1日のプレスリリース)
半導体・コンピュータの巨大企業IBMは、半導体技術を用いた次世代シーケンシング技術を開発してきたが、National Human Genome Research Instituteの研究グラント“Genome Technology Program, Advanced Sequencing Technology Awards 2009”への提案・採択で初めて明らかにされた。IBMは、次世代シーケンサー“DNA Transistor”の開発をロシュと提携して推進することを、2010年7月1日にプレスリリースした(プレスリリース内容はこちら)。このプレスリリースでは、ロシュは分子診断と次世代シーケンサーの領域で実績があり、ロシュ傘下の454 Life Sciences社のシーケンサーについては、臨床検査に利用できる方向で進めることが発表された。ロシュにとっては、454シーケンサーの次の機種を保有でき、かつ実績のある現行機は臨床・診断という大きな市場の獲得を指向していくと思われる。一方、IBMにとっては、次世代シーケンサーでは実績が少ないので、ロシュと組むことにより、次世代シーケンサー競争を勝ち抜き、かつIBMのコンピューティング技術でも市場を獲得していく戦略と思われる。IBMのウェブサイトで、“DNA Transistor”のビデオ紹介が2件あるが、これらビデオの内容を視聴する限り、かなり現実性の高い技術と思われる。なお、巨人IBMだけでなく、Intelも2005年頃から次世代シーケンシング技術の特許を出願しており、2010年7月1日には、United States Patent Application 20100167938 “Nucleic acid sequencing and electronic detection” が公開されている。他の次世代シーケンサー企業にとっては、新たな強敵の登場であるとともに、生命科学系研究者にとっては、今後の次世代シーケンサー選びに迷ってしまう。
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シーケンシング原理
IBMの次世代シーケンシング技術“DNA Transistor”の内容については、その概要しか発表されておらず、また特許も公開されていないので、その原理の詳細は不明である。IBMの2010年7月1日の発表によると、1本鎖が通過するほどの直径2~3 nmのnanoporeを開けたシリコンチップを作製し、そのnanopore を通過させるときに電圧の変化を検出して塩基配列を決定する原理を用いている(原理の概要はこちら)。ヒトゲノムの再配列決定のコストは100~1000ドルになる予定で、迅速かつ正確に配列を読める技術の確立も近いという内容のプレスリリースがなされた。“DNA Transistor”の大きなメリットとして、配列決定コストが安価になるだけでなく、シーケンサーが非常に小型になることが期待される。
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