RainDrop Digital PCR Systemの原理
RainDrop Digital PCR System(RainDrop Systemと略す)の原理を説明する(下図参照)。RainDance社が開発したRainStorm picodroplet技術を用いて、サンプルDNA溶液をもとに、単分子のDNAを含む微小液滴(液量はpLレベル)を作製する。下図には、Wild-type DNAに微量のMutantDNAが混入したサンプルを分析するケースを示す。なお、液滴形成時のDNA分布はポアッソン分布を取るので、空の液滴も生成する。各液滴にPCRプライマーとTaqManプローブを加えた後、PCR反応を行う。Wild-type DNAとMutantDNAのそれぞれに対して、別々の蛍光色素でラベルしたTaqManプローブを用いるので、PCR増幅により、それぞれのDNAから別々の蛍光色素が遊離する。レーザー照射により蛍光色素から発する蛍光を検出することにより、Wild-type DNAとMutant DNAを分別・同定する。 |
RainDrop Systemの性能
RainDrop Systemの性能は下記の通りである。 (1) RainDrop Systemは1サンプルあたり1000万個の液滴を生成できる。この優れた性能により、検出下限値は百万分の1(0.0001%)で、250,000分子のWild-type分子の中に1分子のMutant DNAが混じった場合でも、そのMutant DNAを検出できる。 (2) ターゲットDNAの絶対的な数を決定できる(絶対的な定量を行える)。 (3) 他社のDigital PCR機器と異なり、2種類の蛍光色素を持つTaqManプローブを用いたPCR反応を行えるうえ、2種類の蛍光色素の比を変えることにより、最大10種類のDNAの検出を行える。したがって、同一サンプルで10種類までのDNA種について検出・分析を行うことが可能である。 |
他社のDigital PCR機器
Digital PCR機器も、次世代シーケンサーと同様に、開発競争が激しくなっている。以下に、3社の機器の概要を述べる。 (1) Fluidigm Corporation 各サンプルにつき770のPCR反応を行うマイクロチャンバーを持ち、同時に最大48サンプルまでの分析を行えるDigital Array IFC 48.770プレートを用いてDigital PCRを行う。PCR反応を終えたプレートは、BioMark ReaderによりTaqManプローブ由来の色素から発する蛍光をもとにターゲットDNAの検出を行う。 (2) Life Technologies 子会社であるApplied Biosystemsが、昨年11月に“QuantStudio 12K Flex Real-Time PCR system”と呼ぶDigital PCR機器を発売した。本機器は、1ランあたり12,000データポイントのPCR反応を行うことができ、1日(8時間)に最大9ランの分析を行うことができる。 (3) Bio-Rad Laboratories Bio-Rad Laboratoriesは、昨年第3世代PCR機器を開発していたQuantaLife, Inc. を買収し、最近QX100 Droplet Digital PCR systemを発売した。この機器を用いると、「8ウェルフォーマットのカートリッジ」と「QX100 Droplet Generator」により、各ウェルあたり20,000個の液滴(液量は1 nL)を生成できる。8ウェルフォーマットのカートリッジの液滴サンプルを96ウェルフォーマットのプレートに移して、PCR反応を行う。PCR反応が終わったら、QX100 Droplet Readerを用いて、各液滴内のTaqManプローブ由来の蛍光色素を検出する。96ウェルで同一のサンプルを分析した場合には、約140万個の液滴を解析できる性能を有し、また変異DNAの検出下限は0.001%(10万分の1)であるので、RainDrop Systemに次ぐ性能を有するといえる。 |
次世代シーケンサーによるDeep Sequencingとの比較
Digital PCR機器を用いると、低頻度で存在する変異DNAの検出、CNV(Copy Number Variation)検出、または目的DNAの絶対的定量を行うことができる。Illuminaシーケンサーなどのショートリード次世代シーケンサーを用いたDeep Sequencingでも1分子DNA分析を行うことができるが、Digital PCR機器と次世代シーケンサーの両者の優劣を考察してみたい。 低頻度で存在する変異DNAの検出については、次世代シーケンサーの場合、DNA増幅時のエラーや配列同定エラーなどに起因するエラーを考えると、検出精度はDigital PCR機器に対して劣るであろう。また、次世代シーケンサーを用いた場合、精度よくCNVを検出することができない。さらに、次世代シーケンサーを用いた場合、目的DNAの絶対的定量を行うことも困難である。したがって、これら定量的分析という用途については、Digital PCR機器の方が優れているといえる。なお、変異DNAの検出におけるDigital PCR機器の欠点は、特定の変異/DNAしか分析できない点である。 |