市販(予定)次世代シーケンサーの用途別分類
以前のGOクラブで、市販(予定)次世代シーケンサーの新しい分類を掲載した。その後に登場した新しいシーケンサーの性能・機能などを吟味し、「次世代シーケンサーの新しい分類」を下表のように更新したい。なお、下表は用途別分類であるので、各タイプの分類の境界は曖昧であり、かつ複数の用途に使えるシーケンサーもある。 タイプA.研究用途(特殊用途/先端研究用)シーケンサー 長鎖シーケンシングやDNAメチル化の検出などが行えるシーケンサーがこのタイプに属する。RNAも直接シーケンシングできる機器も登場するであろう。 タイプB.研究用途(一般ゲノム研究用)シーケンサー 配列出力量が大きく、微生物や高等生物の全ゲノム解析に用いることができるシーケンサーである。配列決定作業に対して分子生物学の知識と熟練が必要である。Illumina MiSeqやIon Torrentシーケンサーでは、シーケンシング前のサンプル・ライブラリー調製の工程を簡便化する開発が進んでいるが、シーケンシング全工程を吟味すると、クリニックなどで簡易に扱える段階には達していない。このタイプに属するシーケンサーでも、診断用途・業務用途にも使える機器も出てくるであろう。 タイプC.診断用途/業務用途(Sample-In、Answer-Out型)シーケンサー 被験サンプルから簡易にDNAが取りだすことができ、DNAサンプルをシーケンサーに入れると(Sample-In)、自動的にシーケンシングが行われ、解析結果が出力される(Answer-Out)タイプのシーケンサーがこの分類に属する。多くは、研究用途にも用いることができる。 タイプD.小型ポータブルシーケンサー 持ち運び可能なシーケンサー(デバイス)がこのタイプに属する。ただし、サンプル・ライブラリー調製が自動化されているとは限らない。なお、Oxford Nanopore MinIONデバイスについては、発表内容をみると、タイプCにも属すると思われる。配列出力量が小さくてもよい研究用途にも使える。
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“Sample-In, Answer-Out” Sequencer
上表のタイプCの“Sample-In, Answer-Out”とは、サンプルを入れると、自動的に実験・処理が行われ、答え(解析結果)が出てくるという意味である。このような概念のデバイスの源流は、Microfluidics技術を利用した“Lab-on-a-Chip (LOC)”にある。LOCで著名なベンチャー企業はCaliper Life Sciencesである。1995年に設立された企業であるが、「大きな生命科学の研究室を小さなマイクロチップ内に閉じ込める」という革新的な概念を発表し、一世を風靡した。その後、このLOCはAgilent 2100 Bioanalyzerなどで実現している。 LOCが本格的な姿で登場するのは、GnuBIOが開発している次世代シーケンサーであろう。GnuBIOは、ibc Life Sciences(8月6日)とCambridge Healthtech Institute(9月28日)のミーティングで、True"Sample In, Answer Out" DNA Sequencingという謳い文句で、最近の進捗を発表する。以前のGOクラブでもGnuBIOのシーケンサーの詳細を紹介しているが、サンプルを入れると、約2.5時間で自動的に答えが出てくるという優れものである。 “Sample-In, Answer-Out” Sequencerは、前処理の簡便化・自動化が実現されているなら、必ずしもLOCを用いる必要はない。また、クリニック用や業務用に使うのであれば、持ち運び可能である必要もなく、据置型でも構わない。 |
QIAGENによるIntelligent Bio-Systems (IBS) 買収の意味
以前のGOクラブでも紹介したが、IBSは、タイプB用途のMax-Seqシーケンサーを昨年市販したが、ほとんど売れていないものと思われる。このような状況があり、“PinPoint Mini”と呼ぶ「より簡易に扱える安価なシーケンサー」の開発にシフトした。そのシーケンサーの概要はGOクラブで紹介した。利用するターミネーターの濃度が低いこともあり、シーケンシングコストが安価になる。そして、20サンプル同時にシーケンシングが行え、さらにサンプルごと独立に随時シーケンシングできる点が、クリニック用シーケンサーに適していると思われる。これに、シーケンシングの前処理が得意なQIAGENが合体するので、かなり魅力あるシーケンシング・システムになるはずだ。これがQIAGENがIBSを買収した意図であろう。 QIAGENは、“Sample-In、Answer-Out”と同じ目標である“Sample-to-Result (from Sample to Result)”を掲げて、DNA・RNAの調製・精製の簡便化・自動化を実現させるための技術や製品を開発している。QIAGENは、今回のプレスリリースで、「“Sample-to-Answer”型のワークフローを実現する2種類の自動化工程の開発を進めている」と発表している。したがって、IBSシーケンサーとQIAGENの技術を融合させて、“Sample-In, Answer-Out”型に近いシーケンサーの上市を目指すものと思われる。なお、この新シーケンサーは今年中にアリーアクセスのユーザでテストされ、来年発売される。 以前のGOクラブの「IBSのMax-Seqシーケンサー登場」の記事では、「近い将来戦国時代に突入する」と予想したが、その予想は1年後に実現される形となった。QIAGENによるIBSの買収は、シーケンサー業界に対して衝撃を与えたものと思う。特に、Oxford Nanoporeによるナノポアシーケンサーが今年2月に発表された後の買収であることを考えると、IBSの買収はQIAGENが勝算があると判断した決断であったと思われる。今後、次世代シーケンサーの各社のシェアや業界地図も大きく変わっていくであろう。Illumina優位も変わっていくのではないか? Rocheは、454社を買収し、業界をリードしてきたが、現時点では454-FLXシーケンサーは見劣りがする。しかも、FLX+シーケンサーは予定通りのスペックが出ない場合が多く、トラブル続きである。RocheはIlluminaの買収を試みたが、失敗に終わった。Rocheは次にどういう手を打ってくるのであろうか。 |