第2世代技術を用いたポータブルシーケンサーの開発を目指すLaserGen
LaserGenは、光(UV)照射により切断可能な蛍光色素を持つヌクレオチドである“Lightning Terminator”を用いてDNAポリメラーゼにより1塩基ずつ逐次合成して塩基配列を決定する技術を確立したが、その内容については、以前のGOクラブの記事を参照してほしい。 修飾ThymidineがTTPに対して取り込まれる効率が悪いことが大きな問題であったが、LaserGenはこの取り込み効率を1000倍以上改善し、この問題を解決できたことを、科学誌Nucleic Acids ResearchのAdvanced Access版(2012年5月8日)に発表している。LaserGenの第2世代シーケンシング技術は、Illuminaの技術と似ているが、修飾ヌクレオチドの取り込み速度が高く、TherminatorなどのDNAポリメラーゼに対する優れた修飾ヌクレオチド結合能を有している点で優位性がある。特に、塩基取込み速度は35~45塩基/秒であり、Pacific Biosciencesが開発した1分子リアルタイムシーケンシングのDNA合成に匹敵するレベルである。その結果、配列決定時間が短縮でき、また配列決定精度が高いことが期待される。なお、LaserGenは、今年の“Advances in Genome Biology and Technology”で、「大腸菌ゲノムの配列決定を行い、生データレベルでリード精度が極めて高かった(エラー率0.2%)」ことを発表している。 シーケンサーについては、プロトタイプ機の開発(今夏完成予定)が進んでおり、1サイクル(1塩基逐次合成)の時間はまだ長く30分であり、リード長も25塩基と短い。今後1サイクルの時間の短縮とリード長を長くしていく開発を進めていく方針を発表している。LaserGenは、今年3月6日に「US ArmyのSBIRグラントに採択された」ことを発表した。本グラントの資金を用いて、ポータブルシーケンサーの開発を目指すとしているが、その内容については公開していない。 LaserGenは過去の研究グラントでは、独自技術であるPulsed Multiline Excitation (PME) 技術をマイクロ流路技術と組み合わせて、シーケンサーを小型化する研究開発を進めてきたので、この成果をもとに、ポータブルPME DNAシーケンサーの開発を進めるものと想定される。小型軽量レーザーとマイクロ流路の組み合わせについては、たとえば九州大学 工学部 電気情報工学科・電気電子工学専攻・興研究室が開発を進めているので、その研究室のホームページを参照すれば、ポータブルシーケンサーのイメージを掴めるであろう。検出は、CCDカメラに使われているCMOSイメージセンサー技術を使うと予想する。いずれにせよ、レーザーやUVを使い、さらに逐次塩基合成のサイクルごとに洗浄工程も必要なので、シーケンサーはOxford NanoporeのMinIONのようなUSBメモリーサイズの小型デバイスでなく、ノートパソコン程度の大きさにはなると予想する。またナノポアシーケンサーのようなUSB駆動の電力では動かないと思われる。 |
ポータブルシーケンサーの将来展望
2012年2月21日のGOクラブでは、Oxford Nanoporeが来年初めに市販する予定であるUSBメモリーサイズのUSB駆動ポータブル・シーケンシング・デバイスを紹介した。続く3月5日のGOクラブでは、Geniaが開発を進めるポータブル・ナノポアシーケンサーについて紹介し、また 2012年4月5日のGOクラブでは、QuantuMDxが開発を進めるナノワイヤ技術利用のポータブル・シーケンサーについても言及した。ナノポアを中心とするナノテク・ベースのシーケンシング技術を利用した場合にのみ、シーケンサーのポータブル化が可能と思っていたが、上述のLaserGenのシーケンサーのように、第2世代技術利用のシーケンサーでも小型化できる可能性が開けた。Ion TorrentシーケンサーやIlluminaシーケンサーも小型シーケンサーが将来登場するかもしれない。次世代シーケンサーの世界は、5年後には、iPhone/iPad と似た状態になり、「いつでもどこでもシーケンシング」の時代となるであろう。 |