2012年3月21日水曜日

Illumina HiSeq/MiSeqシーケンサー vs Ion Torrentシーケンサー

 Illuminaは今年1月10日に「Illumina HiSeq2500の発売とMiSeqのアップグレード」を発表したが、その後に「MiSeqを使った小規模シーケンシングキットやガン遺伝子シーケンシングパネル」についても発表した。今回のGOクラブでは、Barclays Capital Global Healthcare ConferenceでのIlluminaの発表(2012年3月14日)などをもとに、これら新製品について紹介し、Ion Torrentシーケンサーとの比較について考察してみたい。


HiSeq2500の性能

 今年後半に発売予定であるHiSeq2500シーケンサーと現行機種のHiSeq2000との違いは、HiSeq2500ではMiSeqフォーマットのシーケンシングが行える“Rapid Run”の機能を追加した点である。この追加により、HiSeq2500では、27時間で120 Gbの配列を出力できるようになる。以前にも、この機能追加により、HiSeq2500はIon Protonシーケンサーと対比できる機種であることを触れたが、下表に示すように、両機種のパーフォマンスはほぼ互角である。その対比の詳細については、以前のGOクラブでも述べたので、その記事を参照されたい。なお、Ion Proton Sequencerは今年秋に発売予定であるが、Ion Proton II チップの発売時期は2013年になるので、HiSeq2500より利用開始時期は遅れる。
 HiSeq2500を用いると、ほぼ1日でヒト全ゲノム解析を行うのに必要な配列データが得られるほか、エキソーム解析については20サンプルの配列データが1日で得られる。また、RNA seqについては、30サンプルの配列データが5時間で得られることから、IluminaのChristian Henry 氏(SVP and GM, Genomic Solutions)は、Barclays Capital Global Healthcare Conferenceで、HiSeq2500の発売により、トランスクリプトーム解析については、マイクロアレイから次世代シーケンサーに本格的に移行していくだろうとコメントしている。

項目\シーケンサー
Illumina HiSeq2500 Sequencer
Ion Proton Sequencer
 リード長100 bp(最大150 bp)200~400 bp
リード数6億個3億個(Ion Proton II Chip利用時;推定)
出力120 Gb(2×100 bpモード)100 Gb(Ion Proton II Chip利用時)
シーケンシング時間27時間(2×100 bpモード)4~5時間(推定)

MiSeqアップグレードと小規模出力シーケンシングキットの発売

 Illuminaは、1月のMiSeqアップグレードの発表に加えて、MiSeqシーケンサー用の数百Mb出力のシーケンシングキット(小規模出力シーケンシングキット)の発売を最近アナウンスした。現行のMiSeqのパフォーマンスは1.0~1.5 Gb/ランであるが、試薬の改良と機器のマイナー変更により、MiSeqの性能を3倍向上させるアップグレードが今年中頃から利用できるようになる。また、短時間でシーケンシングが終わることから、試薬の劣化を防ぐことにより、リード長250 bpのシーケンシングも可能になる。このアップグレードにより、MiSeqは、通常モードではIon Proton I チップを用いるIon Proton Sequencerと同等の性能を有することになり、また小規模出力シーケンシングキットを利用したときには、Ion Torrent PGMシーケンサーの性能と対比できる性能を有することになる。アップグレード後のMiSeqシーケンサーとIon Torrentシーケンサーの性能の比較を下表にまとめる。

項目\シーケンサー
MiSeq
MiSeqIon ProtonIon Torrent PGM
モード/チップ通常モード小規模出力モードIon Proton I チップ316/318チップ
 リード長100~250 bp未公表200~400 bp200~400 bp
リード数600~750万
1200~1500万(PEモード)
未公表5000万(推定)100~500万
出力3~7 Gb数百Mb10 Gb100 Mb、1 Gb
シーケンシング時間14~16時間(2×100 bpモード)
20.7~24時間(2×150 bpモード)
35時間以上(2×250 bpモード)
未公表数時間~5時間
(推定)
数時間

TruSeq Amplicon - Cancer Panel for MiSeq System

 ホルマリン固定パラフィン包埋(Formalin-Fixed Paraffin-Embedded: FFPE)組織は、ルーチンでの遺伝子検査に使われ始めていることから、次世代シーケンサーを用いたFFPE組織の解析は重要である。Life Technologiesは、昨年10月12日に、FFPE組織を用いた場合でも、Ion Torrentシーケンサーを用いて46種類のガン遺伝子の変異を短時間で解析できるキットであるIon AmpliSeq - Cancer Panelの発売を発表している。最近、Illuminaは、FFPE組織を用いた場合でも、MiSeqシーケンサーを用いて48種類のガン遺伝子の変異を短時間で解析できるキットであるTruSeq Amplicon - Cancer Panel for MiSeq Systemの発売を発表した。両社のキットとも、5%以下の頻度の変異でも同定できるので、ほぼ同等のパフォーマンスを有するといえる。なお、Life Technologiesは、約400種類のガン関連遺伝子の変異をIon PGMシーケンサーとIon 318チップを用いて解析できるIon AmpliSeq - Comprehensive Cancer Panel、ならびに約100のメンデル遺伝の疾患に焦点を当てた約10,000アンプリコンをIon PGMシーケンサーとIon 316チップを用いて解析できるIon AmpliSeq - Inherited Disease Panelの発売を最近発表した。このように、疾患関連遺伝子解析用のキットの開発については、Life Technologiesの方が先行する状況となっている。

今後の展開

 以前のGOクラブで、Illumina HiSeq/MiSeqなどの第2世代シーケンサーとIon Torrentシーケンサーの出力量の進化速度は今後鈍化するであろうと予想した。その理由としては、逐次合成型シーケンシング法を利用する第2世代シーケンサーのリード長やリード集積度が限界に近づいてきたことが挙げられる。
 一方、Ion Torrentシーケンサーについては、Ion Torrentの特許にCMOSチップのwell sizeやemulsion PCR用のbeadsサイズの例が開示されているが、(ケース1) 1.4 μmのピッチで1.0 μmのウェルの90 nm CMOSチップの場合に0.7 μmのビーズを使う、(ケース2) 1.0 μmのピッチで0.5 μmのウェルの65 nm CMOSチップの場合に0.3 μmのビーズを使う、(ケース3) 0.7 μmのピッチで0.3 μmのウェルの45 nm CMOSチップの場合に0.2 μmのビーズを使うという「3つのケース」が記載されている。ケース1の場合、各素子が正方形状に13,000個×13,000個(センサー部分の大きさは1.8 cm×1.8 cm)並んでいると、Ion Proton I チップに相当する。ケース3の場合は、各素子が正方形状に26,000個×26,000個(センサー部分の大きさは1.8 cm×1.8 cm)並んでいると、Ion Proton II チップに相当するように思われることから、Ionチップの集積度も限界に近づいてきたと思える。
 さらに、IlluminaシーケンサーもIon Torrentシーケンサーも、1ランでヒト全ゲノム解析に利用できる配列データを産生できるようになったので、市場ニーズの観点からも出力量は目標に到達したと言える。したがって、第2世代シーケンサーとIon Torrentシーケンサーはともに、今回の発表のように、臨床・診断分野での利用、コスト削減、および精度・信頼性・簡便性などの向上に重点を置いて開発が進むものと予想する。
 3月14日のBarclays Capital Global Healthcare ConferenceでのIlluminaの発表においても、Oxford Nanoporeシーケンサーの脅威について質問がなされたが、IIluminaのChristian Henry 氏は、「Oxford Nanoporeシーケンサーが登場したとしても、製造・販売を含めて市場で信頼を得るには時間がかかること、さらに臨床・診断分野ではコスト・精度・信頼性なども評価ポイントになることから、Sequencing-By-Synthesis法を利用したIlluminaシーケンサーは、Several yearsの間優位性を保てるだろう。」とコメントしている。