Illuminaは今年1月10日に「
Illumina HiSeq2500の発売とMiSeqのアップグレード」を発表したが、その後に「MiSeqを使った小規模シーケンシングキットやガン遺伝子シーケンシングパネル」についても発表した。今回のGOクラブでは、
Barclays Capital Global Healthcare ConferenceでのIlluminaの発表(2012年3月14日)などをもとに、これら新製品について紹介し、Ion Torrentシーケンサーとの比較について考察してみたい。
HiSeq2500の性能
今年後半に発売予定であるHiSeq2500シーケンサーと現行機種のHiSeq2000との違いは、HiSeq2500ではMiSeqフォーマットのシーケンシングが行える“Rapid Run”の機能を追加した点である。この追加により、HiSeq2500では、27時間で120 Gbの配列を出力できるようになる。以前にも、この機能追加により、HiSeq2500はIon Protonシーケンサーと対比できる機種であることを触れたが、下表に示すように、両機種のパーフォマンスはほぼ互角である。その対比の詳細については、以前のGOクラブでも述べたので、その記事を参照されたい。なお、Ion Proton Sequencerは今年秋に発売予定であるが、Ion Proton II チップの発売時期は2013年になるので、HiSeq2500より利用開始時期は遅れる。
HiSeq2500を用いると、ほぼ1日でヒト全ゲノム解析を行うのに必要な配列データが得られるほか、エキソーム解析については20サンプルの配列データが1日で得られる。また、RNA seqについては、30サンプルの配列データが5時間で得られることから、IluminaのChristian Henry 氏(SVP and GM, Genomic Solutions)は、Barclays Capital Global Healthcare Conferenceで、HiSeq2500の発売により、トランスクリプトーム解析については、マイクロアレイから次世代シーケンサーに本格的に移行していくだろうとコメントしている。
項目\シーケンサー
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Illumina HiSeq2500 Sequencer
| Ion Proton Sequencer |
リード長 | 100 bp(最大150 bp) | 200~400 bp |
リード数 | 6億個 | 3億個(Ion Proton II Chip利用時;推定) |
出力 | 120 Gb(2×100 bpモード) | 100 Gb(Ion Proton II Chip利用時) |
シーケンシング時間 | 27時間(2×100 bpモード) | 4~5時間(推定) |
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MiSeqアップグレードと小規模出力シーケンシングキットの発売
Illuminaは、1月のMiSeqアップグレードの発表に加えて、MiSeqシーケンサー用の数百Mb出力のシーケンシングキット(小規模出力シーケンシングキット)の発売を最近アナウンスした。現行のMiSeqのパフォーマンスは1.0~1.5 Gb/ランであるが、試薬の改良と機器のマイナー変更により、MiSeqの性能を3倍向上させるアップグレードが今年中頃から利用できるようになる。また、短時間でシーケンシングが終わることから、試薬の劣化を防ぐことにより、リード長250 bpのシーケンシングも可能になる。このアップグレードにより、MiSeqは、通常モードではIon Proton I チップを用いるIon Proton Sequencerと同等の性能を有することになり、また小規模出力シーケンシングキットを利用したときには、Ion Torrent PGMシーケンサーの性能と対比できる性能を有することになる。アップグレード後のMiSeqシーケンサーとIon Torrentシーケンサーの性能の比較を下表にまとめる。
項目\シーケンサー
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MiSeq
| MiSeq | Ion Proton | Ion Torrent PGM |
モード/チップ | 通常モード | 小規模出力モード | Ion Proton I チップ | 316/318チップ |
リード長 | 100~250 bp | 未公表 | 200~400 bp | 200~400 bp |
リード数 | 600~750万
1200~1500万(PEモード) | 未公表 | 5000万(推定) | 100~500万 |
出力 | 3~7 Gb | 数百Mb | 10 Gb | 100 Mb、1 Gb |
シーケンシング時間 | 14~16時間(2×100 bpモード)
20.7~24時間(2×150 bpモード)
35時間以上(2×250 bpモード) | 未公表 | 数時間~5時間
(推定) | 数時間 |
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TruSeq Amplicon - Cancer Panel for MiSeq System
今後の展開
以前のGOクラブで、Illumina HiSeq/MiSeqなどの第2世代シーケンサーとIon Torrentシーケンサーの出力量の進化速度は今後鈍化するであろうと予想した。その理由としては、逐次合成型シーケンシング法を利用する第2世代シーケンサーのリード長やリード集積度が限界に近づいてきたことが挙げられる。
一方、Ion Torrentシーケンサーについては、Ion Torrentの特許にCMOSチップのwell sizeやemulsion PCR用のbeadsサイズの例が開示されているが、(ケース1) 1.4 μmのピッチで1.0 μmのウェルの90 nm CMOSチップの場合に0.7 μmのビーズを使う、(ケース2) 1.0 μmのピッチで0.5 μmのウェルの65 nm CMOSチップの場合に0.3 μmのビーズを使う、(ケース3) 0.7 μmのピッチで0.3 μmのウェルの45 nm CMOSチップの場合に0.2 μmのビーズを使うという「3つのケース」が記載されている。ケース1の場合、各素子が正方形状に13,000個×13,000個(センサー部分の大きさは1.8 cm×1.8 cm)並んでいると、Ion Proton I チップに相当する。ケース3の場合は、各素子が正方形状に26,000個×26,000個(センサー部分の大きさは1.8 cm×1.8 cm)並んでいると、Ion Proton II チップに相当するように思われることから、Ionチップの集積度も限界に近づいてきたと思える。
さらに、IlluminaシーケンサーもIon Torrentシーケンサーも、1ランでヒト全ゲノム解析に利用できる配列データを産生できるようになったので、市場ニーズの観点からも出力量は目標に到達したと言える。したがって、第2世代シーケンサーとIon Torrentシーケンサーはともに、今回の発表のように、臨床・診断分野での利用、コスト削減、および精度・信頼性・簡便性などの向上に重点を置いて開発が進むものと予想する。
3月14日のBarclays Capital Global Healthcare ConferenceでのIlluminaの発表においても、Oxford Nanoporeシーケンサーの脅威について質問がなされたが、IIluminaのChristian Henry 氏は、「Oxford Nanoporeシーケンサーが登場したとしても、製造・販売を含めて市場で信頼を得るには時間がかかること、さらに臨床・診断分野ではコスト・精度・信頼性なども評価ポイントになることから、Sequencing-By-Synthesis法を利用したIlluminaシーケンサーは、Several yearsの間優位性を保てるだろう。」とコメントしている。 |