Intelligent BioSystems (IBS) のシーケンシング技術の原理
Intelligent Bio-Systems (IBS) のシーケンシングの原理は、Illuminaの技術と同じく、4種類のNucleotide reversible terminatorsを用いたSequencing-By-Synthesis (SBS) 法に基づいている。その詳細については、次の論文を参照してほしい。 ・PNAS 103, 19635-19640 (2006) ・Nucleosides, Nucleotides and Nucleic Acids 29, 879–895 (2010) IBSが用いているreversible terminatorsは、Columbia Univ.のTurro教授らが開発したもので、図のような構造を持っている。Illuminaのreversible terminatorsは、デオキシリボースの3'-OH基が蛍光色素を含む構造物でブロックされている。一方、IBSのreversible terminatorsは、デオキシリボースの3'-OH基は小さなAllyl基でブロックされ、塩基部分にAllyl基を介して蛍光色素が付加されてい る。この構造の方がDNAポリメラーゼにより取りこまれやすいので、Illuminaシーケンシングより有利であろうとされていたが、実際のところ優位性 については不明である。1塩基ずつ逐次合成されることになるが、各サイクルでPd触媒のDeallylation作用により、蛍光色素が切断され、またデ オキシリボースの3'-OH基が露出するので、次の塩基の合成が可能になる。 Illuminaシーケンシングでは、Templateの調製はフローセル上でBridge Amplificationにより行う。一方、IBSのシーケンシングの場合、ビーズを使ったemulsion PCR法 (Polony Library法)に加えて、Harvard Univ.のGeorge Church教授らが開発したRolony Library法、すなわちRolling Circle AmplificationによるDNA nanoball作製法も利用できるようである。 |
Max-Seq Genome Sequencerの性能
Max-Seqシーケンサーのスペックは、Azco Biotech, Inc.のホームページの情報によると、次の通りである。 1度に2個のシーケンシング用フローセルが使える。1個のフローセルには8レーンあるので、合計16個のサンプルが処理できる。また1レーンあたり最大1億リードの配列が読める性能を有する。シングルリードの場合、リード長は35 bpと55 bpである。1ランあたりの出力塩基配列量は最大約100 Gbである。シーケンシング精度については公表されていない。 シーケンサーの価格については、「お問い合わせ」が必要であるが、他社相当品(IlluminaシーケンサーとSOLiDシーケンサー)と比べると安い らしい。なお、過去に発表されたPinPointシーケンサーの予価は250,000ドルであった。また試薬代も35%以上安いようである。 |
今後の展望
IBSのMax-Seqシーケンサーは、上述のようにIlluminaシーケンサーに近いシーケンサーであるが、現時点では他社の同等機器に対して優位性が乏しいことから、IBSはMax-Seqシーケンサー発売を積極的にアナウンスしなかったものと推測される。IBSは、 このMax-Seqシーケンサーをベースとして、Ion Torrent PGMシーケンサーやIllumina MiSeqシーケンサーのカテゴリーに入る、“PinPoint Mini”と呼ぶシーケンサー(価格は予価85,000ドル)の開発を進めており、このミニシーケンサーで勝負をかけるようである。ヒトゲノムの exome sequencingを行った場合、1日半で終了し、ランニングコストは150ドルである。この“PinPoint Mini”の特長は、20個のフローセル(1個のフローセルあたり1レーン)を同時に処理できる点である。20個のフローセルはそれぞれ独立に処理できる ので、シーケンサーを止めることなく、新しいサンプルを次々とシーケンシングできることが利点である。リード長はラボレベルでは最長100 bpで、1ランあたりの出力塩基配列量は最大約80 Gbであるらしい。来年になると、Life Tech/ABI-Ion Torrent、Illumina、Roche-454、GnuBIO、そして今回のIBS と、POC(Point-of-Care)領域での利用を狙った新しいシーケンサーの戦国時代が到来する予感がする。 |