これまでGOクラブでは、次世代シーケンサーを第2~第4世代まで性能・機能別に分類してきた。次世代シーケンサーも、他の機器と同じく、新しい世代の機種は性能が上がり、旧世代の機種は次第に廃れると考えられた。ところが、454 FLXシーケンサー、Illuminaシーケンサー、そしてSOLiDシーケンサーの3機種がよく知られている第2世代シーケンサーであるが、3年前はどれも同じレベルの性能を持っている印象を受けた。しかし、その後、これら機種はそれぞれ進化し、454-FLXは他の2機種とは性能が大きく異なってきた。また第3、第4世代の新機種も続々と発表されている。このような背景から、GOクラブでも、「第3世代、第4世代シーケンサーに負けていない第2世代シーケンサー」というタイトルの記事も過去に紹介している。新しい出来事として、第2世代のSOLiDシーケンサーを開発・発売しているLife Technologies社は、2008年12月に第3世代シーケンサー開発ベンチャーVisiGen Biotechnologies社を買収し、さらに2010年8月に第4世代シーケンサー開発ベンチャーIon Torrent Systemsを買収した。ごく最近、Roche社は、「イギリスのDNA Electronicsと提携して、新しい半導体ベースのシーケンサーを開発する。」と発表した。このような一連の流れにより、各世代の次世代シーケンサーは今後用途別に進化していくと予想される。今回のGOクラブでは、次世代シーケンサーの新しい分類、すなわち用途別分類について考えてみたい。
現在登場しているシーケンサーの用途別分類
これまでに販売された次世代シーケンサーは、いずれも研究用に使用されるものであるが、個々の機器は特徴がある。この特徴に従って、個々の機種を用途別に分類してみる。
1.ヒトゲノム解析用途/一般研究用途 GWAS (Genome-Wide Association Studies)、ガンゲノム解析、WTA (Whole Transcriptome Analysis)、mRNA-seq、Chip-Seq、Methyl-Seqなどの一般研究用途に適しているシーケンサーとしては、1ランあたりの出力量が多いIllumina HiSeq/GAとSOLiDが挙げられる。 2.新規ゲノム配列決定(de novo sequencing) 多種類の次世代シーケンサーが登場しているが、良好なドラフト配列が得られるシーケンシング技術は変わっていない。Illumina GAでも細菌ゲノムであれば、良好なドラフト配列が得られるが、高等生物ゲノムの場合には、得られるコンティグ数は膨大な数になり、分断化されたままである。現時点では、リード長が長い454-FLXシーケンサーでコンティグを形成し、Fosmid/BAC-Sanger法によるMate-pairシーケンシングによりScaffold (Supercontig) を形成する方法が一般的なde novo sequencing法である。今後は、リード長が10 kb近くなるPacific BiosciencesのPACBIO RSシーケンサーを用いてcontigを連結し、scaffoldを得ることが期待される。 3.Ampliconシーケンシング/メタゲノム解析 Ampliconシーケンシングやメタゲノム解析についても、新規ゲノム配列決定と同様に、リード長が長い454-FLXシーケンサーを用いて解析する方法が有効である。 4.特殊用途 Pacific BiosciencesのPACBIO RSシーケンサーについては1分子シーケンシングで、リード長が長く、しかもサンプル調製が短時間で終わるという利点から、他のシーケンサと比べると、病原体検出、RNAシーケンシング、mRNAスプライシングバリアントの解析などの特殊用途に向いていると予想される。 5.短時間・簡便な解析(Ion Torrent SystemsのPGMシーケンサー) 2時間程度の短時間でシーケンシング反応が終わることから、新規細菌ゲノム配列決定、第2世代シーケンサーによるシーケンシング解析のプレラン的解析、病原体検出などを簡易に行う用途に向いていると思われる。 |
半導体DNA検出技術を持つベンチャー“DNA Electronics”とRocheとの提携で感じること
第2世代、第3世代シーケンサーが登場したときには、次世代シーケンサーの開発は安価にシーケンシングする方向に向かっていると思われ、GOクラブでも「第2~第4世代シーケンサー」という分類を行った。ところが、「IBMのDNA Transisitorの開発とIBMとRoche社(454社の親会社)との提携の発表」、「Ion Torrent SystemsのPGMシーケンサーの登場」、そして「Roche社(454社の親会社)が半導体を利用したDNA検出技術を持つDNA Electronics社との提携による新シーケンサー開発の発表」を見る限り、次世代シーケンサーの開発は単なるコストダウンだけでなく、各種用途に向いているシーケンサーを開発していく流れになっている。次世代シーケンシングやDNAの瞬時検出・分析は、医療だけでなく、生物に関わる幅広い産業に普及していくことは間違いないが、特に医療領域の将来用途については、DNA Elecstronics社のホームページを見ると、よくまとめられている。
Ion Torrent Systemsのシーケンシング技術もDNA合成時のpH変化に基づいており、DNA Electronics (DNAe) 社の技術のライセンスを受けている。Roche社も同様にDNA Electronics (DNAe) 社との提携を発表したことは興味深い。この次世代シーケンサーの開発の流れは、「昔の半導体/電卓/コンピューターの開発の流れ」に似ているように思われる。半導体は急速に価格が安価になるとともに、それを利用した多様な機器が誕生し、今では我々の生活の隅々まで浸透している。現在、半導体は1個あたり数百円で製造できるものも多く、極めて競争は厳しい。一方、次世代シーケンサーなどのバイオ産業に目を向けてみると、この「新しい半導体」が普及していくことになるが、「従来の半導体」とは異なり、使い捨て半導体になる。しかも、医療だけでなく、幅広い産業に活用されていくことになるので、次世代シーケンサーの産業は市場が巨大なものになると推測される。以上のような考察のもと、次に5~10年後の次世代シーケンサーの用途別分類についてまとめる。 |
次世代シーケンサーの5~10年後の用途と分類
これまでに登場した第2~第4世代シーケンサーの特徴と将来のニーズをマッチングさせて分類すると、次世代シーケンサーは下記の3つに大別できるであろう。
タイプA.先端研究用シーケンサー このタイプに属するものは、出力データ量も多く、解析時間にも数日以上かかるタイプのシーケンサーである。なお、DNAの調製は各種実験機器を持たない一般ユーザにとっては困難である。 (A-1) 最先端シーケンサー(新規ゲノム配列を完全に決めることに大いに役立つ):例えば、一部の第3世代シーケンサーやHalcyon Molecularのシーケンサーがこのカテゴリーに該当すると予想される。 (A-2) ヒトGWAS (Genome-Wide Association Studies) に用いられるような一般研究用途のシーケンサー:Illuminaシーケンサー、SOLiDシーケンサー、PACBIO RSシーケンサーがこのタイプに該当するであろう。 タイプB.サンプル調製・シーケンシング処理が自動化され、かつ短時間で終了するシーケンサー サンプル調製・シーケンシング処理が定型化・自動化されて、安価かつ精度よく配列を出力でき、かつ短時間で終了するシーケンサー。Sanger法シーケンサー(第1世代)、454-FLXシーケンサー、Ion Torrent Systems PGMシーケンサーなどがこのタイプに該当するであろう。 タイプC.簡便・ポータブル型シーケンサー (C-1) DNA調製が極めて簡単で、シーケンシングも短時間で終了し、出力データ量はほどほどのタイプ:IBM DNA Transistor(第4世代-1分子)がこのタイプに該当するであろう。多くの機種はオンサイトでもシーケンシングできるものになる。 (C-2) 必ずしもシーケンスの出力はいらない超小型DNA検出器: DNAe社のGenalysisシステムなどがこのタイプに該当するであろう。 GOクラブでは、上記のタイプのシーケンサーを、特に医療分野の用途に限定して暫定的に分類した結果を下表に示すので、次世代シーケンサーの将来用途に関して参考にしてほしい。
*)POC (Point-of-Care): 血糖値検査など患者のすぐ近くで行う診断/検査のこと。
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