2010年10月27日水曜日

次世代シーケンシング用のサンプル調製を楽にする技術や製品


 これまでGOクラブで紹介してきたように、次世代シーケンサーも進歩し、便利になった。一方で、次世代シーケンシング用のライブラリー作製・調製は、以前より大量のサンプルの処理をマニュアルで実施しなければならないために大変な作業となり、かつエラーが発生する可能性も高い。今回のGOクラブでは、次世代シーケンシング用のサンプル調製を楽にする技術や製品を紹介する。


Beckman Coulter Genomics "SPRIworks Fragment Library System" - 全自動ライブラリー作製機器

 Beckman Coulter Genomics が開発した“SPRIworks Fragment Library System”は、次世代シーケンサー用ライブラリーを作製する処理、すなわちPCR増幅・シーケンシング反応前の処理を全自動で実施できる。System I とSystem II が販売されているが、機器は同一で、カートリッジとメソッドカードを交換するだけで、Illumina GAIIシーケンサー用のライブラリーとRoche-454 GS FLXシーケンサー用のライブラリーをそれぞれ作製できる。また、SOLiDシーケンサー用のライブラリーも調製できる。DNAの断片化だけは付属のNebulizer を用いて行うが、その後の工程の作業を機器が全自動で実施する。たとえば、Illumina GAIIシーケンサー用ライブラリーであれば、末端修復反応、A塩基付加、アダプターライゲーション、DNAサイズ選択のすべての工程を全自動で実施することができる。なお、1台の機器で一度に10種類のライブラリーを約4時間で作製できるので、1日に20種類のシーケンシング用ライブラリーを得ることができる。

Fluidigm "Access Array system" - 48×48同時PCRチップ

 Fluidigm社は、何万もの流体制御バルブや相互に接続されたチャンネルを小型チップに内蔵することができる“MSL technology”と呼ぶ技術を開発し、本技術を利用した“Access Aray System”の販売を最近開始した。“Access Aray System”は、マイクロ流体回路(IFC: Integrated Fluidic Circuit)を持つチップを用いて、48種類のサンプルのPCR反応を同時に実施できる装置である。なお、1つのサンプルにつき48種類のライブラリーをPCR反応にかけられるので、一度に最大2,304種類(48×48)のライブラリーを作製できることになる。ただし、全自動ではなく、マニュアルの操作工程は合計6個ある。本技術を利用すると、次世代シーケンサー用ライブラリー作製の一部ではあるが、Amplicon Sequencing (目的のDNA領域をPCRで増幅した後、ライブラリーを作製し、配列決定を行う実験のこと)で威力を発揮するであろう。一度に作製できるライブラリーの数や質の観点から、“Access Aray System”は Roche-454 GS FLXシーケンサーを用いたバーコード・タグ・シーケンシングに適していると思われる。

RainDance Technologies "RDT 1000" - 2,000,000同時PCR反応

 RainDance Technologies社が開発した”RainStorm”と呼ぶmicrodroplet-based technologyは、picoliterレベルの微小液滴を1時間あたり1,000万個生成できる技術である。各種PCRプライマーを微小液滴に含ませ、一方鋳型DNAを別の微小液滴に含ませた後、両者を融合させることにより、融合された液滴の中に鋳型DNAとPCRプライマーが混合した状態になる。この”RainStorm”を利用したPCR装置"RDT 1000”が最近販売されたが、この機器を用いると、PCRプライマーのセットとしては、何百~何千種類のものを一度に利用でき、かつ一度に最大2,000,000のPCR反応を同時に実施できる。仮にプライマーセットが4000種類であれば、PCRで増幅される1つの領域あたり500倍の深さでDeep Sequencingを行える計算である。なお、"RDT 1000”を用いると、1つのチップで1日あたり8サンプルの処理を行える。一度に作製できるライブラリーの数や質の観点から、"RDT 1000”は IlluminaシーケンサーやSOLiDシーケンサーを用いたターゲット・リシーケンシングに適していると思われる。

Caliper LifeSciences "Sciclone NGS Workstation" と "LabChip XT"

 Caliper LifeSciences社が2010年10月21日発売を発表した"Sciclone NGS Workstation"は、次世代シーケンサー用ライブラリーを作製する処理を全自動で実施できるロボットである。ロボットと表現した理由は、Beckman Coulter Genomics が開発した“SPRIworks Fragment Library System”は一体型小型自動装置であるのに対して、"Sciclone NGS Workstation"は、複数の工程をロボット技術で自動化している。"Sciclone NGS Workstation"は、adapter ligation、exome capture、PCR setup,nucleic acid cleanup、enzymatic stepsなどの工程の作業を自動化する。また、Caliper LifeSciences社は、従来ゲルで行われていた断片化DNAの精製作業(3時間)を30分に短縮するDNA断片自動精製装置"LabChip XT"も販売している。

Sage Science "Pippin Prep" - 電気泳動法によるDNA断片自動精製装置

 DNA断片のサイズ分画に関しては、アガロース電気泳動法が多くの研究者にとって身近に感じると思う。従来マニュアルで実施していたアガロース電気泳動法を用いた特定サイズのDNA断片の精製を自動的に実施する装置"Pippin Prep"を、Sage Scienceが開発し、最近販売を開始した。"Pippin Prep"の詳細については、Sage Science商品紹介ページを参照してほしいが、次世代シーケンシング用のライブラリー作製・調製に役立つと思われる。